いざという時に!「会社のお金」にまつわるお話(第28話)《設備投資資金と事業計画》
(第28話)
300社以上の経営支援をしてきた経営改善の専門家が、実例を基に会社に起こり得る様々な金融面の問題にスポットを当て、解決までのストーリーをご紹介します。
《設備投資資金と事業計画》
【実例企業(A社)の概要】
業 種 :プラスチック製品製造業
社員数 :35人
主要製品:自動車部品、家電製品部品、雑貨品など
1.相談のきっかけ
①急成長の果てに
A社は、現社長の父親が創業したプラスチック製品製造会社です。長年、5人前後の社員で3台の製造機械を用いて小型容器などを生産してきましたが、6年前に長男が社長に就任すると事業は急拡大へと舵を切り始めました。
異業種の他社で営業を経験してきた社長は、持ち前の行動力で新規顧客の開拓活動を精力的に行い、自動車部品の受注に成功しました。自動車部品ですのでロットが大きく、まとまった売上がほしかったA社にとっては嬉しい話でした。
しかし、既存顧客分の生産もそのまま続けるので、新たな製造機械の購入が必要となりました。そこで、A社は金融機関から借り入れを受けて製造機械を購入し、自動車部品の生産を行いました。すると、自動車部品メーカーからはさらに受注が舞い込みました。ここでまた社長は借り入れを受けて製造機械を購入しました。
その後も、A社には増産要請が幾度となくあり、その都度金融機関に相談しては借り入れを受けて設備を導入するということが続きました。
②金融機関の想定外の対応
気が付くと、A社の売上は2倍になっていましたが、製造機械の減価償却費と借入金の利息負担が重くのしかかり、営業利益率は1%を割る状態となっていました。
規模の拡大を目指して走り続けてきた社長も、ここで一息ついて組織改革や社員教育の整備など内部体制の改善に努めたい。そう思っていた矢先に、ある環境関連の会社から、環境機器を支える大型プラスチック基材を同社で作ってほしいという依頼が舞い込みます。A社の高い技術力を見込んでの引き合いです。
それまででしたら、二つ返事で応えていた社長でしたが、ここで初めて社長は電卓を手に採算性を計算しました。するとこの案件は、従来の自動車メーカーからの受注案件より利益率が抜群に良いことがわかり、さっそく金融機関の担当者に融資をお願いしたところ、思いもしない返答がありました。「いい話かもしれませんが、今回は見送って足元を固めませんか」と、やんわりと断りを入れてきたのです。社長としても足元を固める時期であることは十分に承知していましたが、この案件を見逃すのはどうしても惜しく、当社に相談に来られました。
2.当社の助言
①全ては社長の頭の中に
当社では、これまでどのような計画を立て、どのようなデータを継続的に採取、分析し、そして今後どのような計画を描いているかについて伺いました。
社長の答えは、これまでの計画については、すべて社長の頭の中で描いてきたとのことでした。データについては、税理士が作成する決算申告書だけで、今後の計画についても、今回社長が簡単に計算した採算性の分析のみでした。
②お金を貸してもいい条件
つまり、何がどれくらい収益を生んでいるか、収益を生む要素(単価が高い、経費が低い等の要因)が全く分からない状態です。つまりは「行き当たりばったり」です。 このような状態で、お金を貸してほしいと言われれば、金融機関が躊躇するのは当然です。そこで、まず社長には、他人がお金を貸してもいいと思う条件は何かを考えてもらいました。
答えは、「可能な限りの安心の積み上げ」です。借りたお金を「100%確実にお返しします」と言うことは誰でもできます。しかし、そこに根拠があるかどうかが重要です。具体的な根拠を積み上げることが、他人(金融機関)がお金を貸しても大丈夫と確信する担保になります。
3.事業計画の作成
①事業計画の条件
説明と対話を重ね、社長には「安心の積み上げ」の大切さをわかって頂きましたが、では具体的に何をすればいいでしょうか。 ここで当社が提案したのが、事業計画の作成です。一口で事業計画といっても、社内向けのものもあれば、社外向けのものもあります。計画内容も、会社全体もあれば、一部の事業もあります。当社の事業計画作成支援の方針は、どのような目的、対象であれ根拠を示すということです。そして、根拠とは数字です。なぜなら、数字は誰もが理解できる共通言語だからです。
②事業計画の構成
A社社長とも数字をベースとした事業計画書を作成する方向で打ち合わせ、作成作業に入りました。社長からヒアリングをする限り既存顧客、製品の採算性は減価償却費と支払利息の負担により営業利益は低く推移しているものの、受注の見込みは極めて手堅く、減価償却費と支払利息は逓減していくことを考えると一定の採算性はあると判断できました。もちろん、キャッシュフローは現在もプラスです。
そこで、既存顧客別、既存製品別の採算性を算出し、万が一新規製品の採算性が仮に期待を下回るものであったとしても、会社の屋台骨には傷をつけないことを理解してもらえる構成で作成を進めました。なお、算出の結果、予想に反して既存顧客、製品も採算性に不安があるようなら新規製品は再考してもらうという約束を社長とは行っていました。
続いて、新規製品の収益性の分析です。社長が予め行っていた計算をさらに精緻化したのはもちろんですが、売上の予想については別の視点でも検証を行いました。
人件費や設備の減価償却費、原材料費用などについては、過去の実績から予測がつきますが、売上高は相手があってのことです。さらに、今回は新規製品ですので、過去の実績を参考にすることはできません。
③売上予想分析
そこで、売上予想については、外部環境分析と呼ばれる分析を行いました。一言で表せば、その製品が現在そして今後、社会(外部環境)でどれだけ必要とされているかの調査です。その結果、新製品は環境関連製品であり、今後需要は大きくなることが予想されるものであり、同製品の受注予定数量は妥当どころか、保守的(少なめに)に見積もった数字であると判断することができました。
これらをまとめて事業計画書として銀行に提出すると、その後、前向きな姿勢をうかがわせる質問がいくつかあり、結果、無事融資を受けることができました。
4.まとめ
経営者の皆様は誰もが計画は持っていると思います。しかし、事業は社員、金融機関、取引先等の協力があって遂行できるものです。それらステークホルダーが見ることのできない計画は、計画と呼ぶことはできません。
見える化作業を通して今後の事業展開を明確に示し、金融機関だけではなく社員や取引先からの信頼を得るということも事業計画作成の意義の1つです。
皆様方にはぜひ事業計画を作成して頂きたいと思います。