
令和6年度補正予算案にみる中小企業支援について
令和6年度の中小企業・小規模事業者向けの補正予算案が中小企業庁から令和6年12月13日に公開されました。この補正予算案は総額5,600 億円とされており、既存の基金の活用を含めると1兆円を超える規模となっています。この予算案は、中小企業・小規模事業者の生産性向上、新事業展開、成長支援、省力化投資、資金繰り支援、経営改善支援など、様々な支援策を目的としています。
(国の予算とは?)
補助金・助成金は、国が政策を推進するために政策目的に合った取組みに対して、民間や地方自治体等に交付する金銭的な給付です。一定期間における国の活動に必要な金銭の収入、支出の計画を総合的にとりまとめたものであり、政府によって毎年編成され、国会の審議・承認を受けます。成立事由により「本予算」「補正予算」「暫定予算」の3つに分けられます。
(補正予算とは?)
当初の予測より税収が増減したり、災害の発生などにより歳出が多かった場合に、年度途中で組み直した予算のことです。不足分を補うことから通常は当初予算よりも増額して成立します。補正予算は11月から12月の間に予算編成が行われ、翌年の1月頃の国会審議を経て成立し、4月以降に執行されます。令和6年4月以降に公募が始まる補助金の正式名称は、「令和6年度補正〇〇補助金」となります。
基本的な課題認識と対応の方向性
まず、物価高や構造的な人手不足といった厳しい経営環境に直面する中小企業・小規模事業者の“稼ぐ力”を強化するために、予算・税・制度などの政策手段を総動員して支援を行います。これにより、賃上げ原資を確保し、持続的な賃上げに繋げることが期待されています。
なお、以下に示す施策は令和6年12月時点の政府発表資料に基づいています。
Ⅰ.生産性向上支援の拡充
生産性向上支援として、ものづくり補助金、IT導入補助金、持続化補助金、事業承継・M&A補助金の拡充が行われます。
これらの支援には3,400億円が割り当てられており、中小企業や小規模事業者の設備投資、販路開拓、IT導入、事業承継などを支援します。
具体的な措置としては、以下の内容が含まれています。
* 最低賃金近傍の事業者に対する支援として、補助率を1/2から2/ 3に引き上げる(ものづくり補助金、IT導入補助金)。
* 設備投資や取引実態に合わせ、補助上限・枠・要件を見直し、より使い勝手の良い制度に改善する(ものづくり補助金、IT導入補助金、持続化補助金、事業承継・M&A補助金)。
* 具体例として、ものづくり補助金では、製品・サービス高付加価値化枠について、従業員区分を見直し、21人以上の中小企業を対象に補助上限を引き上げ。また、賃上げ動向を踏まえ、賃上げ要件や運用等を見直し。
* IT導入補助金では、セキュリティ枠の補助上限を引き上げ、要件を見直し、汎用ツールや導入後支援の補助対象化を進める。
* 小規模事業者持続化補助金では、経営計画の策定に重点を置き、枠の整理や制度の簡素化を図る(通常枠、創業枠などへの再編)。
*事業承継・M&A補助金では、PM(I 買収後の統合)を後押しするための推進枠の創設や、早期承継促進のための枠再編を行う。また、M&Aのトラブル防止に資するデューデリジェンス(DD)費用の支援拡充や100億円企業創出加速化を図るための補助上限の引き上げを実施。
Ⅱ.新事業への進出にかかる支援の推進
新事業進出補助金(仮称)の創設も予定されています。採択予定数6000件、年4回の公募を想定しているようです。
この補助金は既存基金の活用により1,500億円規模で、中小企業や小規模事業者の成長につながる新事業進出・事業転換を重点的に支援するために設けられました。(事業再構築補助金の後継と言われています。)要件としては、企業の成長・拡大に向けた新規事業への挑戦や賃金要件などが含まれます。
Ⅲ.成長支援の新設・強化
成長支援の一環として、「中小企業成長加速化補助金」が創設されます。これには3,400億円が割り当てられ、意欲ある中小企業や小規模事業者が飛躍的成長を遂げるための設備投資や中小機構による多様な経営課題(M&A、海外展開、人材育成など)への支援が行われます。要件としては、売上高100億円を目指すビジョンや潜在力、賃金要件などが求められます。
また、昨年度から創設された中堅・中小企業の成長投資補助金も拡充され、1,400億円が割り当てられます。地方においても持続的な賃上げを実現するため、地域の雇用を支える中堅・中小企業が行う大規模投資を支援します。
Ⅳ.省力化投資支援の運用改善
令和6年に創設されたカタログ型省力化補助金ともよばれている省力化投資支援の運用改善も行われます。既存基金の活用により3,000億円規模の支援が行われ、個別発注形式の省力化投資支援が新設されます。これにより、省力化投資の支援が一層強化されます。
令和8年まで公募実施が決定しています。
Ⅴ.中小企業・小規模事業者の活性化に向けた支援
中小企業・小規模事業者の活性化に向けた支援には404億円が割り当てられ、既存予算の活用も含めた総合的な支援が行われます。以下のような施策が予定されています。
1. 重層的・規律ある資金繰り支援の強化
通常資本性劣後ローンの拡充やプロパー融資促進のための新たな保証制度の創設などを通じて、中小企業の資金繰りを支援します。
2. 経営改善・事業再生・再チャレンジ支援の拡充
早期経営改善計画策定支援事業を通じた金融機関による経営改善支援の促進、中小企業活性化協議会を通じた再チャレンジ支援の拡充(各種手続き・専門家経費等)が行われます。
3. 相談体制の拡充
商工会・商工会議所・よろず支援拠点、中小企業活性化協議会、事業承継・引継ぎ支援センターなどの相談体制が拡充されます。
4. 価格転嫁対策の一層の強化
価格交渉促進月間を踏まえたフォローアップ調査を活用した取引実態調査が強化されます。
5. 令和6年能登半島地震等の切れ目ない復旧支援の継続
能登支援として「なりわい再建支援補助金」で150億円が計上され、令和6年能登半島地震などの復旧支援が継続されます。
6. 局激指定災害への支援拡充
局激指定災害に関する自治体連携補助金の補助上限引き上げ、中小企業の対象化、施設建替の対象化などの支援が拡充されます。
まとめ
今回の補正予算案については中小企業・小規模事業者が抱える課題に対し、総合的なサポートを提供する内容になっています。特に、生産性向上支援や新事業進出、成長投資、省力化投資の運用改善など、多岐にわたる支援策が含まれています。これにより、経営環境の改善と持続的な成長が期待されます。中小企業の皆様が抱える困難に対し、政府の多面的な支援を活用し、一緒に成長と発展を目指しましょう。