
「要素分解」の具体的手法
「要素分解」とは、複雑な問題に対し、単に表面的な数値や現象を眺めて判断するのではなく、事象を構成要素に分解し、それぞれを個別に分析することで全体を理解しようとするプロセスのことです。
実務上では、市場規模の概算や新規事業の収益試算など、様々な用途に活用できます。
例として、病院を顧客に入院患者の食事を提供する「病院向け施設給食市場」への参入を検討してみます。
まずは市場の概観を把握したく、市場規模を調査してみます。矢野経済研究所によると、給食市場全体での市場は成長、病院向けに限定すると縮小と予測されています。
「市場規模が縮小している」との情報だけで、当市場への参入可否を判断することはできないでしょう。より詳細に当市場を把握するため、当市場を掛け算の形で要素分解してみます。
“病院向け施設給食市場” = ”給食を外部委託する病院数” × ”病院あたり支出額(委託先への支払額)”
更に分解すると、
“外部委託病院数” = ”①日本全国の病院数” × ”②そのうち給食を外部委託する割合”
“病院あたり支出額” = ”③病院あたり入院患者数” × “入院患者の給食利用率” × ”④1食あたり給食単価”
上記の粒度まで分解した上で、個別の動向を探ります。
① 顧客となる病院は、人手不足や財政難を背景に数が減少しています。
② 給食を外部委託する割合は上昇しているものの、ここ数年は伸びが鈍化、頭打ち感があります。①病院数の減少もあり、給食業者にとってスイッチングでない新規顧客の獲得は難しくなるでしょう。
③ 入院患者数は足元では増加するものの、2030年頃からは減少に転ずるようです。一方で①病院数の減少幅ほどではないことから、病院あたり入院患者数は増加すると予測されます。給食業者にとって入院患者の多い大病院は魅力的であるものの、発注ロットの大きさを武器にした値下げ交渉が行われそうです。
④ 入院食に係る保険適用額は30年間ほぼ据え置きのため、食材費の高騰に対し給食単価は上がりきっていないと推察されます。給食業者から病院への販売価格も同様と予想され、業者にとっては1食あたりの利ざやは小さいでしょう。
以上の情報を整理すると病院向け施設給食は、病院数が減少、外部委託率が頭打ちになる中で、価格勝負で競合からのスイッチングを狙う収益性の低い業界という印象を受けます。