column コラム

2024/06/21 経営

~あらたな経済ステージでの価格転嫁はチャンスへの一歩~

中小企業の経営戦略において、リスクとチャンスは欠かせない要素です。急変する市場において事業を継続するには、リスクを冷静に評価し、チャンスを見極める力が重要です。最新の事例と具体的な手法を交えつつ中小企業の戦略的経営について考えます。

先日の首相会見でもありましたが、デフレからの脱却のチャンスを活かし、新たな経済ステージへ移行する鍵は「中小企業の賃上げと稼ぐ力の強化(生産性向上)」です。そのためには①適切な価格転嫁、②賃上げ支援、③人手不足対応の強化(省力化投資、自動化投資の支援)、④働く方への支援が前提となり、それを後押しする国の具体的施策が次々と打ち出されています。
しかし、実際に値上げ交渉や賃上げの実行、省力化設備投資を実行するのは、企業割合で99.7%を占める中小企業者です。
ここでは中小企業の皆様が行う「①適切な価格転嫁」について考えてみます。

1. 適切な価格転嫁
中小企業の価格交渉について、中小企業庁が発表している2023年9月の調査結果をみてみました。

① 価格交渉の状況(資料A)
過半数が価格交渉は行われたとなっています。しかし問題点として「交渉資料を準備できない」、「価格改定の時期が数年に1度」等の理由で、機動的な価格交渉が出来ていないことが挙げられています。

② 価格転嫁の状況(資料B)
同じく価格転嫁の状況は、次のようになっています。
「価格転嫁の裾野は広がりつつありますが、今後はこの裾野の拡大に加えて、転嫁率の上昇を図っていくことが重要」であるとしています。

③ 今後
今後も国は、価格転嫁率のさらなる向上に向けて、中小・小規模事業者の賃上げ原資を確保するためにも、公正取引委員会等とも連携し価格転嫁対策を進めてく方針です。具体的には、賃上げを阻害する下請法違反に厳正に対処することを表明しています。

 

(資料A)

出所:中小企業庁価格交渉促進月間(2023年9月)フォローアップ調査の結果について(確報版)

 

(資料B)

出所:中小企業庁価格交渉促進月間(2023年9月)フォローアップ調査の結果について(確報版)

 

2. 価格転嫁・価格交渉の方法
具体的に価格交渉はどうすれば成功するのでしょうか。基本的には以下の2つを切り分けて交渉するのが効果的です。
① 簡単でも良いので値上がりしている原材料費や光熱費等の変動費部分の原価について根拠資料を提出し、この部分から交渉を行うと受け入れられやすいでしょう。

② 人件費等の固定費部分、言い換えれば付加価値部分については、品質向上や納期短縮といった自社での改善項目を示し、顧客にとってのプラス要因を交渉材料に、「当社はしっかりと供給責任を果たすためには値上げが必要」と明言して交渉します。賃上げも要求される中、人件費の増加を生産性の向上で補うことが重要となります。

3. 生産性の向上
生産性の向上の取組については、コスト削減のためだけではなく人手不足に対する対応策として有効です。省力化投資及び自動化投資によって省人化が図れますので、少ない人員でこれまで以上の生産性を上げることができるようになります。国も補助金等の支援を集中的に実行すると明言していますので、チャンスと捉えて積極的に活用し、利益も確保していきましょう。

4. コスト構造の見える化
また、日頃から自社のコスト構造を把握し、費用の増減とその原因を数値で示す交渉資料を、すぐに作成できるように準備しておくことも重要です。

まとめ
インフレが進むとますます値上げ交渉の頻度が上がってきます。省力化や生産性の向上に取り組み、コスト削減努力をするだけでなく、日頃から自社の原価構造を把握し、費用の増加を数値で示す交渉資料をすぐに作成できるように準備しておくことが肝要です。
省人化・効率化を進めて価格転嫁のための取り組みを、次のビジネスに活用していきましょう。
ピンチはチャンス!