「リスクとチャンスの理解について」
中小企業の経営戦略において、リスクとチャンスは欠かせない要素です。急変する市場において事業を継続するには、リスクを冷静に評価し、チャンスを見極める力が重要です。最新の事例と具体的な手法を交えつつ、中小企業の戦略的経営について考えます。
今回は、戦略的経営の基本としてリスクとチャンスの概念を解説し、なぜそれらが中小企業にとって重要なのかを掘り下げたいと思います。
中小企業にとってのリスクとチャンス
戦略的経営は全ての組織にとって重要なものですが、中小企業の持続的な生存・成長のためには特に欠かせないものであると言えます。戦略的経営を核に、リスクとチャンスを見極め、リスクを最小化しつつチャンスを創出し最大化していくことが求められます。中小企業にとっては、リスクとチャンスを見極めることこそが、生存のための基本だといっても過言ではありません。以下の観点でその理由を解説します。
<リソースが限られている>
中小企業は、大手企業と比べると資本やリソース(人材含む)が限られています。その限られたリソースをいかに無駄なく、効率的にパフォーマンスに変えられるかということがとても重要です。リスクを判断し、チャンスを適切に捉えることで、限られたリソースを無駄にすることなく、最大限に活用することができます。
<時代の変化をキャッチする>
例えば製造業なら、代々伝わるアルチザン的な技術力を継続的に守り伝え、高めつつ、その分野に関する最新の機械を導入し、より効率的に近代的なものづくりをすることが求められます。またそのことが、他社との差別化を生み、新しい市場や顧客を開拓することにつながります。
<持続的な成長につながる>
リスクを分析・回避し、チャンスを適切につかむことで、継続的な成長につなげることができます。例えばコロナ禍では、それまでの事業を大幅に変更し、通信(Wi-Fi)事業やマスク生産、PCR検査キット販売といったコロナ禍のニーズにあった事業にチャレンジすることで、売り上げを大きく伸ばした企業がありました。戦略的経営ではリスクとチャンスを常に分析し、自社のリソースや強みと合わせて考えることで、多少の浮き沈みはあったとしても、持続的な成長へとつなげることができるのです。
リスクとチャンスをどう見極めるか
では、リスクとチャンスはどうやって見極めればよいでしょうか。これには様々なフレームワークを用いることができます。その代表的なものをご紹介しましょう。
<外部環境を知る PEST /PESTEL分析>(ペスト分析、ペステル分析)*PESTLEと表記されることもあります
PEST分析は今から約20年前に誕生したもので、それをさらに発展させ、時代に合わせて進化させたものがPESTLE分析です。SDGsが企業の社会的責任となっている現代においては、環境問題への影響という要因も、経営の戦略に大きな影響を及ぼすと考えられます。また、国全体に関わるような事業、例えば最近ではマンナンバーカードに関する事業では、その推進にあたって関係法案ができたり、改正されたりしています。これから取り組もうとする事業が政府や自治体の方針にあったものかどうかという観点は見過ごすことはできません。
実際にPESTELの要因について分析をするとなると、どこから手をつけて良いかがわからず分析が進まない、ということがあるかもしれません。以下の手順を参考にしてみてください。
①どういった点について訴求したいのか、分析の目的を決める
自社の戦略的経営をすすめるにあたり、何をターゲットとするのかを確認しておきます。
例えば、日本国内での顧客を増やしたいのか、それとも海外、特に東南アジアに大きく展開したいのか。この2つでは考えるポイントが大きく変わります。日本国内での顧客を増やしたいのであれば、<政治的要因>では、日本国内の動向について深掘りすれば良いですが、東南アジアを目指すのであれば、現地の政治の安定、日本との税制の違い、関係法律などについても確認をする必要があります。
②6つの要因に関する情報を集める
例えば社内でプロジェクトチームを作り、6つのグループを編成します。1つのグループが1つの要因を担当し、決められた期日までに関係する、信頼できる情報を収集します。情報を得たリソースも明らかにしておきます。次に、その情報は「事実=発表されている数字や現存する法律など」なのか、「解釈=今ある事実から予想したその人の見解」なのか、について種類分けします。
簡単な例を示します。
<事実>「日本国内でのSNS利用者数が急増」「当社SNS登録者数は少ない」
<解釈>「全体のSNS利用者数は多いのに、当社のSNSに登録者が増えないのは魅力がないから」
解釈は、おそらくそうだろう、という個人の見解です。実際には周知の方法や登録方法に課題があるかもしれません。
このようにして、6つのグループが持ち寄った事実+解釈=情報をすり合わせると、組織を取り巻く外的環境の全容が見えてきます。
③事実について、リスクとチャンスに分類分けする
④ リスクについては回避し、チャンスについては最大限活用するための戦略や方針を策定する
⑤戦略や方針を、行動レベルに落とし込み実践する
⑥定期的にPESTEL分析を実施し、戦略の手入れをする
<外部/内部環境と強みを知る SWOT分析>(スウォット分析)
SWOT分析とは、外部環境と内部環境を、プラス要因とマイナス要因とにわけて4象限で洗い出すフレームワークです。
4つの観点を見てみましょう
S=Strength( 強み):<内部環境・プラス要因>自社の強み、長所、差別化、優位性 など
W=Weakness(弱み): <内部環境・マイナス要因>自社の弱み、短所、不足している部分、不十分な点など
O=Opportunity(機会):<外部環境・プラス要因>外部の環境の変化、流行、新技術など
T=Thread(脅威):<外部環境・マイナス要因>政局、政策、規制緩和、景気動向など
以下、簡単な手順を示します。
① どういった点について訴求したいのか、分析の目的を決める
何を解決したいのか、どこにターゲットを絞るのかをまず決めます。
②外部環境である「機会」「脅威」を考えます。
前述したPESTLE分析の結果も活用できます。
③内部環境である「強み」「弱み」を考えます。
例えば競合他社と比べて、などの前提をつけるとアイデアが浮かびやすくなります。
④クロスSWOT分析をする
クロスSWOT分析では、各要因を掛け合わせることでリスクとチャンスを活用した戦略を策定することに役立ちます。
まとめ
企業活動を支えるのは、そこで働く人々です。分析をもとに策定した戦略により方向性を示すことで、従業員は単に日々の業務を遂行するだけではなく、共通の目的や危機意識をもって業務に取り組むことができるようになります。限られたリソースを最大限に活かし、効果的に、持続的かつ長期的な成長を目指すことこそが、戦略的経営の最大の目的です。