column コラム

2023/09/12 その他経営

~台頭する海外ECサイト~アパレル業の今後の展望

新型コロナウイルスの世界的な流行や世界情勢の不安定化などの環境変化が立て続けに起こり、まさに現代は今後の予想がしにくいVUCA(ブーカ)と呼ばれる状況に陥っています。
そのような状況下においても経営を存続していくためには、環境変化に対応できる戦略を立てることが企業には必要です。
ここでは企業支援の専門家が、業界別に現状と今後の展望を解説します。

 

【アパレル業の概況】

アパレル業全体の売上を見ると、2014年からほぼ横ばいの状態となっています。しかし、新型コロナ感染が拡大したのち、政府による外出自粛の呼びかけ、在宅勤務・リモートワークの増加、インバウンド客の停止、消費者の生活様式と消費マインドの変容などにより、売上が落ちました。

出典:2030年に向けた繊維産業の展望(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/seizo_sangyo/textile_industry/pdf/20220518_1.pdf

 

特に消費者の生活様式と消費マインドの変容は、アパレル業に大きな影響を及ぼしたと言えるでしょう。外出する機会が減少したことで、カジュアルな服装やホームウェアへの需要が増えました。また、百貨店をはじめとした実店舗は特に大きな打撃を受けました。 この現象は日本国内だけにあてはまることではなく、例えばアメリカの金融の中心地であるウォール・ストリートでは、コロナ禍においてスーツを着て出勤する人が激減し、このことで老舗のスーツメーカーが軒並み大きく売り上げを下げたと言われています。
やがて2021年以降は行動規制が緩和され、実店舗への客足が戻ると同時に、インターネットで買い物をするECサイトが大躍進を見せています。

 

【アパレル業 海外サイトの台頭】

アパレルECサイトの急速な広がりの中で、今最も注目を集めているのが、海外、特に中国発のファストファッションのECサイトです。その筆頭ともいえるのが、中国企業が運営する通販サイト「SHEIN(シーイン)」でしょう。SHEINは未上場企業であり、売上などの詳細は公式サイトを見ても全く表記されていません。しかし英フィナンシャル・タイムズによると、SHEINは投資家向けのプレゼン資料で2022年の売上高が前年比52.8%増の227億ドル(約3兆600億円)、純利益は同36%減の7億ドル(約940億円)で、4年にわたって黒字で推移していると明かしたとのことです。また中国国内でも、有力経済誌が2021年の売上高は200億ドル(約2兆4000億円)と報じたとされています。

<低価格>
SHEINといえば、売りは「低価格」。その鍵は、原材料の調達、企画やデザイン、製造、商品の発送まで全てを中国国内で完結させているという点にあります。日本の企業ですと、企画やデザインは日本国内で行っても、原材料調達は海外から、製造は海外工場で、という場合も多数、見受けられます。原材料費や人件費は抑えられるかもしれませんが、輸入・輸出に関わるコストは決して安いものではありません。その点をSHEINはクリアし、世界中のどの国から発注しても、全て中国国内の各拠点で製造し、品物を発送することで低価格を実現していると考えられています。

<豊富な品揃え=高度な個別化>
SHEINは膨大なSKU(Stock Keeping Unit)を展開していると言われ、多い日で約8,000種類の新商品を販売しています。これは、そもそもの商品の種類が膨大ということに加えて、「サイズが豊富である」ということを表しています。女性の衣類ですと、Sサイズから5Lサイズぐらいまで幅広く取り揃えています。しかも多くの商品が「同じデザインで」、小さなサイズから大きなサイズまでを揃えており、多くの女性が抱える「デザインは可愛いけどサイズが合わない」という悩みを解決するものになっていると思われます。SHEINは「プラスサイズ」という、大きなサイズを集めた女性向け衣類のジャンルを展開しており、多様性を認める文化や、ボディポジティブという考え方が広がっている現代のニーズをしっかり掴み、そのニーズに応えられるサービスを形にして展開していると言えるでしょう。

<高度なDX化>
SHEINはAI技術を駆使し、膨大な量の購入データから消費トレンドを分析、その結果に基づき商品デザインや生産量を決定しています。新商品の生産数を初回は100個〜200個に制限、分析の結果をもとに増産するかどうかを決めているので、過剰な在庫を抱えることがありません。
また、デジタル技術を駆使した効率的なサプライチェーン管理を構築しているとされています。さらには、インスタグラム・TikTokなどのSNSを活用したインフルエンサーマーケティングも活発に行っています。
前述した「個別化」にも、AI技術が駆使されています。アプリ上ではその消費者の閲覧履歴などから個別の「おすすめ情報」が表示され、消費者一人ひとりのニーズや好みに合わせた商品やサービスを提供する個別化=パーソナライゼーションを可能にしています。

 

【アパレル業 新しい課題「サスティナブル」「エシカル」】

SHEINのような海外発のファストファッションECサイトが、膨大な品揃えと低価格で一気に世界規模の広がりを見せる中で、今改めて注目されているのが、「サスティナブル」「エシカル」という考え方です。急速に発展した一部のECサイトは、豊富な品揃えと低価格を実現するために、労働者の労働環境・人権や環境への影響に配慮せず、コスト重視で生産していると言われ市民団体などの追求を受けています。実際に前述のSHEINでは今後の企業活動の発展は、「環境・人に配慮できているかどうか」に掛かっているとも言えます。
まずは「サスティナブル」について考えてみましょう。地球規模の環境変動が危惧されている現在では、各業界・個々の企業が「サスティナブル」(持続可能/地球環境を持続させる)への社会的責任を感じて、それぞれの企業活動に取り組むことが求められています。

さらに最近は「エシカル」という考え方も急速に求められるようになっています。エシカルとは「倫理的・道徳的な」という意味です。原材料の選定・製造・販売のフローにおいて、環境と人の両方に配慮することを指しています。例えば「フェアトレード」という言葉は、例えばコーヒー豆の袋に書かれているのを見たことがあるのではないでしょうか。フェアトレードとは、雇用主と労働者が対等なパートナーシップを結ぶことを指し、子供を働かせるとか不当に安い賃金で雇うなどの「労働者搾取」をしていません、ということを表明する言葉です。これもエシカルの考え方の一つです。また化粧品会社などが「アニマルフレンドリー(動物実験をしていない)」を表明することも、エシカルな取り組みの一つとされています。

 

【アパレル業 今後の展望】

今後、アパレル業では海外ECサイトが成功したような高度なDX化による高度な個別化と、サスティナブル/エシカルファッションへの取り組みの両方が求められると考えられます。成功している海外ECサイトでも、大量生産・大量廃棄の仕組みや、エシカルな側面に配慮できていない労働環境問題などを理由に、そのサイト自体を利用しない、という行動でサスティナブル・エシカルへの賛同の意を示す若者が、国内外問わず多くいることも事実です。今後ますます、社会的・文化的な価値を尊重した製造・販売の姿勢が求められると考えられます。
例えば、フェムテック(女性のライフステージにおける体調の変化に配慮し解決できる製品)の開発や、身長・体重が変化することを念頭に着丈や身頃の幅が変えられる子供服の開発、積極的な自社(あるいは自社を問わず)製品の古着回収の取り組みなどについて考えてみることは、既定の考え方・前例に基づいた商品開発をすることよりも重要なことだと言えるでしょう。