~コロナ禍を経て~ 飲食サービス業の今後の展望
~コロナ禍を経て~ 飲食サービス業の今後の展望
新型コロナウイルスの世界的な流行や世界情勢の不安定化などの環境変化が立て続けに起こり、まさに現代は今後の予想がしにくいVUCA(ブーカ)と呼ばれる状況に陥っています。
そのような状況下においても経営を存続していくためには、環境変化に対応できる戦略を立てることが企業には必要です。
ここでは企業支援の専門家が、業界別に現状と今後の展望を解説します。
新型コロナウイルス感染症が流行して、丸3年が経過しました。
緊急事態宣言、まん延防止等措置などを経て、2022年10月には、海外からの個人旅行の受け入れや入国ビザ免除の再開などの水際対策の緩和措置を実施、2023年3月13日以降のマスク着用は個人の判断に委ねる、同年5月8日には、感染症法上の位置付けを、季節性インフルエンザと同じ「5類」に移行する方針を示すなど、徐々に緩和されつつあります。
この間、私たちの生活様式や企業活動が大きく変化しました。そのため、コロナ対策が緩和されても、多くの経営者が、「事業がコロナ以前の水準にまで回復しないのではないか」といった不安を抱いていると思います。
今回は、飲食サービス業を例にして、今後の展望について考えてみたいと思います。
飲食サービス業
日本標準産業分類によれば、飲食サービス業は、「大分類M宿泊業、飲食サービス業」の中で次のように定義されています。
飲食サービス業とは、主として客の注文に応じ調理した飲食料品、その他の食料品又は飲料をその場所で飲食させる(A)事業所並びに、客の注文に応じ調理した飲食料品をその場所で提供又は客の求める場所に届ける事業所及び客の求める場所において、調理した飲食料品を提供する(B)事業所をいう。
この定義からは2つのサービスが読み取れます。
(A) いわゆる飲食店、家庭外で食事を提供するサービスを展開している店(外食産業)
(B) いわゆる出前、今風にいえばフードデリバリーしている事業所(店)
飲食サービス業の現状
中小企業白書2022によれば、「業種別に2021年の前年同期と比較した中小企業の売上高の動向は、2019年同期比と比較すると、依然として多くの業種で売上高が回復しておらず、特に「生活関連サービス業、娯楽業」、「宿泊業、飲食サービス業」においてそれぞれ大幅減となっており、引き続き厳しい状況にある」とあります。2021年のデータであるため最新情報ではないですが、非常に厳しい経営状況が続いていたことが確認できます。
大幅上昇したといえるかどうかはさておき、「飲食店、飲食サービス業(季節調整済)内訳系列の推移」で興味深いのは、ファーストフード店は2020年第2四半期(Ⅱ)こそダメージを受けたものの、同年第3四半期(Ⅲ)以降は回復している点です。
コロナ禍の2021年1月の、飲食サービス業の業態別の売上高を比較した際、業界全体として3割程度減少する中で、テイクアウト・出前はプラス成長したとの報告もあります。また、外食・中食全体で見た場合、2021年1月の前年同月比の成長率は、外食市場は金額市場規模や食機会数、客単価の全てがマイナスであり、中食市場では金額市場規模・客単価がプラス成長したとの報告もあります。
飲食事業者のコロナ禍に対応した取り組み例
このコロナ禍中の3年間、飲食サービス業がコロナへの適応策は、テイクアウトや中食に活路があったといえると考えます。
経済産業省の「事業再構築に向けた事業計画書作成ガイドブック」によれば、飲食業の再構築事業でも、テイクアウトや中食および物販に対応する案件が採択されていることが確認できます。
【出典】中小企業庁 事業再構築に向けた事業計画書作成ガイドブック
コロナ禍では厚生労働省から「新しい生活様式の実践例」が示されています。
先ほどの取り組み例は、こうした新しい生活様式に対応したものといえます。
今後の展望
これらの状況を踏まえ、飲食サービス業の今後の展望ついて考えてみます。
私たちはコロナ禍の中で、新しい生活様式を見出してきました。これはつまり行動の変化にほかなりません。
今後、コロナ対策が緩和されることで、コロナ前のような状況に戻るかもしれません。
寧ろ、その反動としてコロナ前よりも上振れするかもしれません。重要なのは、それが一過性のものなのか、継続的なものなのかを見極めることです。
また、現在は様々な問題・課題が生じています。
□ 原油等のエネルギー価格の高騰、物価の高騰に伴う値上げ対応
□ 少子化、高齢化による人口減少による国内市場の縮小(売上減少)
□ 少子化、高齢化による従業員の確保(労働の担い手不足)
□ リモート授業に慣れた学生たちが従業員や顧客となる時代の到来
□ 働き方改革や人件費の上昇
□ 感染症や戦争等によるサプライチェーンの毀損
□ 2025年大阪・関西万博の開催伴うインバウンド需要への対応
□ コロナ融資の返済 など
□ 原料や人件費の高騰に見合ったサービス料金を獲得できるのか(できなければ事業継続困難)
□ 労働集約型で対応するのか、DXを活用し効率化を目指すのか
こうした課題を含めて、「何を、いつまでに、どこまで対応するか」を決めることが求められます。
これまでの延長という考え方では、新たな行動様式で生まれた、新たな価値観に対応できなくなる可能性があります。
つまり、顧客の新たな価値観を取り入れ、上記の課題解決を実現するサービスを提供することで、今後の飲食業の道筋が見えてくると言えます。
一方、温故知新という考えもあります。
外部環境の変化に対応しながらも、創業以来大切にしてきたお店の味やこだわりなどの強みや価値観を崩さずに守っていくことも重要です。
前述の飲食事業者のコロナ禍に対応した取り組みにおいても、当然ながら、流行りに乗るだけでは成功しません。
如何にして自社の強みを新たな取り組みに活かすかがカギとなります。
これまで主に外部環境を基に飲食業の今後の展望についてお話してきました。
飲食業の皆さまが自社の今後の展望を考えられる際には、是非自社の価値観や強みを中心に置いて検討していただきたいと思います。