資金繰り・資金調達について
300社以上の事業再生案件で成果を上げてきた専門家の視点から、成長する企業と衰退していく企業の経営について、具体的な事例も交えてお伝えしていきます。今回は、資金繰りと資金調達についてお話いたします。
ご訪問させていただくお客様のなかでよく「決算書は黒字だが、資金繰りが忙しい」という話をよく伺います。これは、決算書上の「利益」と「現金」は別物であること意味しています。
現金の流れに焦点をあてて経営を行う事をキャッシュフロー経営といいます。
京セラ創業者の稲盛和夫氏は著書で、キャッシュベースの経営について、『儲かったお金が、どこにどのように存在するのかを明確に把握するのが経営の基本であり、そしてそれは「リアルタイム」で把握されなければならず、ペーパー上の「利益」を待つのでなく、まぎれもなく存在する「キャッシュ」にもとづいて経営の舵取りを行うべきである』と述べています。
みなさまの会社では資金繰り(キャッシュ)はどのように管理されていますか?
■資金繰りとは
資金繰りとは、「会社に入ってくるお金」と「出ていくお金」の管理を行い、資金の流れをコントロールしていくことを指します。経営者は、仕入・支払いのための現金、社員の給与支払いがスムーズにできるような資金繰りを行っていかねばなりません。
現金、預金は少なくとも、月商の1か月分は確保して下さい。理想は月商の2か月から~3か月分です。
■成長する企業と衰退する企業の資金繰り資金調達
売上が増加している企業は、運転資金も増加し、資金繰りが忙しい状況が続きます。決算上の利益がでていても、人件費や、仕入資金の支払い、設備投資が先行し、売上の回収が追い付かないからです。その中でも成長する企業は、確実な資金繰りを実施し、計画的な設備投資、資金調達を行っています。無借金経営よりも、借入金を上手に利用し、効果のある投資を選択することで成長のスピードが速まり、余裕も生まれます。
一方、衰退する企業は資金繰りが実施できておらず、キャッシュが足りなくなる寸前で借入を検討する場合が多いです。こうなった場合、全てが後手に回ってしまいます。折角の投資のチャンスや新規取引先との取引もキャッシュがない上に借入が出来ない為、見逃すことになり、ジリ貧状態となります。
■資金繰りをよくするために
1.現金の入出金を把握し、予定をたてる
商品を販売したときに、「いつ、いくら」の入金があるか、仕入をしたら「いつ、いくら」の支払があるのか、人件費は幾ら必要になるのか、「資金繰り表」を作成し、現金残高を、把握できるようにしましょう。
2.入金は早く、支払いは遅く、適正在庫を心掛ける
商品の販売代金はなるべく早く回収し、代金の支払いをなるべく遅くすることで資金繰りは改善されます。しかし、これは相手があってのことですので、慎重な対応が必要です。もし他社と比べて不利な条件であるなら交渉してみましょう。
また、多くの商品や材料を在庫として保有することも資金繰りを悪化させます。「在庫」=「現金」と考え、現金を眠らせないように、在庫管理を適正に行いましょう。
■資金繰り表の作成
簡易的な資金繰り表のフォーマット[図1]をもとに資金繰り表作成の方法を見ていきましょう。
1.①の前月繰越残高を記載します。現金、預金の合計です。
2.②の収入③の支出⑥の借入返済を記載します。
3.確認・検証をし、⑤の借入等を検討し、記載します。
図1の資金繰り表では、7月の毎月売掛金の回収が1カ月遅れ、資金がショートすることが予想されます。その為、7月に⑤借入金5百万円を短期で調達、翌月には売掛金回収で⑥借入金返済5百万円を行う計画となっています。
資金繰り表の中で金融機関がどこを重点にみているかについては、
1.④経常収支がプラスかどうか(経常収支のマイナスが続くことは赤字体質であると考えられる)
2.決算や試算表と整合性があるかどうか
3.借入の返済メドが立っているか
の3点です。
今回の場合、④経常収支の半年合計が12百万とプラスで推移しています。⑦の財務収支の毎月借入返済1百万、半年で6百万マイナスを考慮しても、6百万のプラスです。
借入の返済は、7月の売掛金回収で5百万を完済できることがわかります。
後は、資金繰り表と試算表の整合性を確認します。
■資金調達について
このように、資金繰り表を作成し、資金繰りを把握していれば、早い段階で、資金不足が把握でき、金融機関にゆとりをもって相談できます。日頃から金融機関に対して資金繰り表と試算表を提出していれば、急に売掛金回収が遅れた場合でも資金調達の交渉がスムーズに運びます。
返済額の軽減を行っているお客様でも、資金調達は可能です。あるお客様ですが、今年に入り突然、大口の仕事を受注し、2月から5月までの支払が先行する為、資金ショートになるところでした。しかし同社はメイン行と日常から良好な関係が出来ており、資金繰り表で回収に確実性が認められ、資金調達することができました。取引金融機関を訪問し、信頼関係を構築しておいたことが資金調達に繋がった事例です。
■まとめ
企業の経営で、キャッシュの管理は非常に重要です。この管理が出来ている企業は、手元資金に加え、更に計画的な借入金等で資金を調達しながら、成長していきます。一方、キャッシュの管理が出来ていない企業は、後手の資金調達となり、企業の成長もままなりません。
企業の成長には、資金繰り表を作成し資金の予定管理を行う事が重要です。資金繰り表を作成し、最低でも半年の予定を立て、資金が足りないようなら原因を把握し、早めの対策をたてましょう。経常収支が問題なら、売上増加の営業をする、仕入の数量・値段を抑える、財務収支が問題なら資金調達を行う、返済額の軽減を依頼する等、予定管理を行うことで、今後の対策の選択肢が増加します。
資金繰り表を作成したら、予定と実績との検証を行うことによって財務体制の改善を繰返し、財務に強い会社を作って企業の成長へと繋げましょう。