
10 年後の姿、描けていますか? ~バックキャスティングの重要性~
先行き不透明なVUCA の時代、と言われている現在は、経営戦略の策定において、未来を見据えた戦略がますます重要視されています。本コラムでは、理想の未来から現在をみて具体的対策を策定するバックキャスティングの重要性についてお伝えします。
バックキャスティングとは
バックキャスティングは、将来の目標や理想の状態から逆算して現状を分析し、その目標を達成するための具体的なステップを策定する手法です。従来の戦略策定方法であるフォアキャスティング(現在の延長線上に未来を描く手法)とは対照的に、バックキャスティングは現在の制約や状況に捉われることなく、理想の未来から現実に適応する手段を考えます。
現在は、社会情勢や環境変化、生成AIをはじめとする技術の急速な進化などにより、従来の「過去のデータや現在のトレンドをもとに現在の延長線上に未来を描き予測する」というアプローチ(フォアキャスティング)だけでは適切な対応が取りにくい状態です。中小企業には、変化への柔軟性や迅速な意思決定という強みがありますが、その一方で、大企業に比べて、資金力やリソースに限りがあります。生成AIをはじめとした技術革新や市場の急速な変化に適応し、長期的な成長と競争力を確保するためには、未来を見据えた戦略が不可欠です。このような背景の中で、バックキャスティングは非常に有効な戦略策定手法となります。例えば、生成AIによる変化が予想外の結果をもたらした場合でも、バックキャスティングは目標達成に向けた複数のシナリオを考慮できるため、企業が柔軟に対応しやすくなるのです。
中小企業におけるバックキャスティングの重要性
(1)リソース有効活用のための優先順位設定
中小企業は、リソース(資金、人材、技術など)が限られているため、戦略策定において優先順位を設定することが重要です。バックキャスティングでは、将来の理想的な目標から現在の状況を逆算するため、どの分野にリソースを集中的に投入すべきかが明確になります。これにより、資源の無駄を避け、長期的な成長に向けた効果的な戦略を立てることができます。
(2)競争環境における柔軟性と適応力の強化
中小企業は、外部環境や技術の変化に対して迅速に対応する必要があり、またそれに対応できることは中小企業の特徴でもありますが、変化のスピードばかりを追うと、短期的な利益に目が向いてしまい、長期的な視野を見失うことがあります。バックキャスティングは、目先の変化に振り回されることなく、長期的な目標に向かって柔軟に対応するための枠組みを作成できます。生成AIの急速な発展により、さまざまな業界で新しいプレーヤーが登場する可能性があります。また技術や消費者ニーズの変化が早いため、過去の成功体験に基づいた未来予測では競争に遅れをとるリスクがあります。中小企業がバックキャスティングを活用することで、将来のビジネス環境を見据え、例えば従業員のリスキリングを積極的に推進するなど、競争に勝つための準備を整えることが可能になります。
(3)サステナブルな成長の実現
近年、企業に対して社会的責任や環境配慮が求められる傾向が強まっています。バックキャスティングを通じて、サステナブルな未来を描き、その未来に向けた具体的な行動計画を策定することで、中小企業も長期的な視点から環境や社会に貢献しながら成長することが可能です。
(4)イノベーションを促進するフレームワーク
中小企業は、大企業に比べて市場の変化や技術革新に対して迅速に対応できるため、イノベーションの機会を捉えやすいという強みがあります。生成AIのような新技術の登場は、新たなビジネスチャンスとなる可能性を秘めています。しかし、変革期においては、ただ漠然と技術を導入するだけではなく、戦略的に活用することが求められます。バックキャスティングは、まず未来の理想像やビジョンを明確にし、そこから逆算して具体的なイノベーションのプロセスを策定するため、無駄のない投資と計画を立てることができます。生成AI活用した新しい製品やサービスの開発、業務効率の改善、新規市場への参入など、革新的なアイデアを実現するためのガイドラインとして機能します。
中小企業におけるバックキャスティング活用プロセス
未来のビジョンを明確化:経営者は、企業の長期的な目標や未来のビジョンを描きます。このビジョンは、生成AIのような新技術や市場トレンドを考慮したものである必要があります。
現在の位置を確認:現在の業績やビジネスプロセス、競争環境を詳細に分析し、未来のビジョンとのギャップを特定します。
逆算して行動計画を策定:未来のビジョンを達成するための具体的な行動計画を逆算して策定し、リソースの配分や投資の優先順位を決定します。
柔軟な戦略の実行とモニタリング:計画を実行しながら、市場や技術の変化に応じて戦略を柔軟に修正し、常に目標に向かって進んでいるかをモニタリングします。
中小企業においてバックキャスティングを実際に導入する際には、社内外のステークホルダーの協力も欠かせません。
従業員や顧客、さらには地域社会との連携を深めることで、より現実的かつ実現可能な未来像を描くことができます。一例として、製造業の中小企業が生成AIを活用して新しい生産プロセスを導入する場合を考えてみましょう。
この企業は、バックキャスティングで、10年後に環境負荷を最小限に抑えつつ生産性を50%向上させるという目標を設定しました。バックキャスティングのプロセスを活用し、その目標を達成するための5年後、3年後、1年後の中間目標も設定しました。その結果、必要なリソースや技術、さらには従業員への教育計画が明確になり、企業全体が今後数年間、同じ方向を向いて取り組むことが可能になる土壌が出来上がりました。
また、バックキャスティングは中小企業にとって予測が難しいリスクにも対処する力を与えます。例えば、近年のコロナ禍や自然災害のような不測の事態に対して、あらかじめ複数のシナリオを検討しておくことで、緊急時にも柔軟かつ迅速に対応できる戦略を構築できます。これにより、企業の存続率が飛躍的に向上するとともに、ステークホルダーからの
信頼も強化されます。
このように、バックキャスティングは単なる戦略策定の手法ではなく、企業文化や意思決定のフレームワークとしても活用することができます。
まとめ
中小企業にとってバックキャスティングは、限られたリソースを有効に活用し、不確実性の高い時代に柔軟かつ持続可能な成長を実現するための重要な手法です。生成AIの登場がもたらす変革期において、未来のビジョンを明確にし、そのビジョンに基づいた戦略を策定することで、中小企業も競争力を維持し、革新を推進することができます。
中小企業は、長期的な目標に向かって前進し、変化する市場や技術の波のなかで成長を続けていかなければなりません。是非、バックキャスティングの手法を活用してください。