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2020/03/31 組織

~「人が辞めない会社作り」について~(第31話)《辞めたくない会社とは?》

(第31話)

300社以上の経営を支援してきた経営改善の専門家が、「人が辞めない会社作り」についての取組みをご紹介します。

 

《辞めたくない会社とは?》

最近のコンサルティング現場での話題として「人材不足」を聞かない日がないほど、中小企業の「人材不足」は深刻な状況です。また、労働力人口は低減していく予想があるなか、将来的にもこの状況は深刻になっていくものと考えています。

中小企業の社長に対してコンサルティング会社としては、「採用」に力を入れるのはもちろんのこと、「やめない会社作り」についてアドバイスをしています。

今回から全6回にわたり、「やめない会社作り」について具体的な考え方、手法についてお伝えしていきます。まず、今回は「やめない会社作り」の全体像をお示ししたいと考えます。

 

「会社をやめる理由」ですが、大手就職サイトのまとめによると、

第1位   やりがい・達成感を感じないから

第2位   給料が低かった

第3位   企業の将来性に疑問を感じたから

第4位   人間関係が悪かったから

第5位   残業や休日出勤など拘束時間が長かったから

第6位   評価・人事制度に不満があった

第7位   自分の成長が止まった・成長感がない

第8位   社風や風土が合わなかった

第9位   体調を壊した

第10位 やりたい仕事ではなかった

となっています。

 

単純に考えると、これらの要因が排除できれば、従業員は会社をやめる理由がなくなります。

しかしながら、要因について、1つずつ排除していくとなると、途方もない時間が掛かりそうですし、具体的に何をすれば良いのか分からない要因もあります。

例えば「給与が低かった」が理由なら、給与を上げさえすれば人材不足は解決するものでしょうか。

「やりがい・達成感」を社員に感じてもらうには、何をどうすれば良いのでしょうか

実は、理由の背景を詳しく読み解くと「給与が低かった」と「人間関係が悪かった」は、会社が抱える同じ課題から派生しているということがわかります。

その課題は大きく3つに分けられます。①会社のブランディング ②人事制度 ③業務効率化です。

 

①会社のブランディング

前述の「会社をやめる理由」の1、3、8、10に対応します。

ブランディングは、アウターブランディング=社外向けブランディングとインナーブランディング=社内向け、に分類できます。

「やめない会社作り」にはインナーブランディングが重要になります。一方でアウターブランディングは、マーケティングには重要な要素であり、また「新規採用」においても注目されています。最近、従来からの自社ブランディングを見直す=リブランディングに、多くの中小企業が取り組み始めています。

また現代人の価値観、特にミレニアム世代と言われる1980年代以降に生まれた人々の価値観は、損得や合理性など物質的なものから、社会的意義やストーリーに共感する情緒的なものに移行してきているという、求職者の意識の変化にも考慮する必要があります。

「この会社で私が〇〇という社会的役割を果たすことで、私が希望する〇〇のような社会貢献ができる」といったイメージを求職者に持ってもらうためのメッセージを発信することが、インナーブランディングの肝となります。

 

【図1 アウターブランディングとインナーブランディング】

②人事制度

「会社をやめる理由」の1、2、4、6、7、10に対応します。

人事制度は、等級や評価、報酬など人材の処遇に関するルールのことを指します。その中でも「評価」に関する不平・不満が「会社をやめる理由」に直結しています。「正当な評価を受けていない」というのがその大半ですが、そもそも評価する「軸」や「目標」が共有されていないことが主な要因です。

人事制度を(再)構築するプロセスで、その「軸」「目標」を検討する際に、従業員のヒアリング(アンケート実施など)で意見吸収を実施します。また「目標」の達成状況の確認や達成に向けたアドバイスを「公式」な面談において実施することにより、達成・未達成の乖離がなくなります。また「公式」な面談でコミュニケーションを図ることで、上司部下の関係を円滑にすることを促します。

 

【図2 人事制度の全体像(例)】


③業務効率化

「会社をやめる理由」の5、9に対応します。「働き方改革」がなじみ深い言葉となっている昨今です。ノー残業デーを設ける/定時帰社を促す、などの取組を社内で行っている会社も多いでしょう。しかし、そもそもの業務量が変わらない中で、時間外労働の削減を実現しようとするのは困難です。結局、隠れ残業や仕事の持ち帰りが常態化し、事態は悪化する恐れもあります。

そこで、業務の負荷そのものを軽減する業務の効率化が、有効になります。

業務効率化は、a:業務棚卸、b:業務仕分け、c:業務標準化のプロセスで実施します。業務効率化は人材不足への対応においても重要であり、AIによる自動化など、この分野ではIT活用が進んでおり、IT導入補助金といった補助金制度もあります。それぞれについての具体的な手法については、次回以降でお伝えします。

 

【図3 業務棚卸表(例)】



「やめない会社作り」=「働き続けたい会社作り」で重要なことは「やりがい」を持たすことができるかということです。「やりがい」は「モチベーション」や「動機」ということで表現されますが、それらを高めるにはその要因が必要です。要因として挙げられるのは、

 

(1)仕事を通じた達成感 (2)承認されること (3)責任と評価 の3つです。

(2)(3)は、前述の「人事制度構築」で対応できるますが、(1)仕事を通じた達成感を持たすことは、さらに重要なことです。仕事そのものを納得していて、明確な目標を持ち、成果を上げられることです。これらは日常業務を通じて感じることなので、経営者や先輩を見て感じることが多くあります。特に経営者から受ける影響は大きいので、従業員に対して、日々その達成感を伝えることが重要です。

また達成感に大きく影響する「成果」に対する「報酬」ですが、金銭的な報酬や昇進昇格が難しい場合は、経営に参画させることなどで「モチベーション」を高く保つことができます。具体的には、成果を上げた従業員にプロジェクトを任せる、経営計画を策定するプロジェクトに参加させる、など経営に影響を及ぼすプロジェクトに参画させることです。

 

自社の従業員が「やめる理由」「続ける理由」を分析して、それに対する具体的な対応することが、従業員の継続雇用につながり、結果的には企業業績の向上にもつながります。