column コラム

2023/08/10 その他

~ゼロエミッションの課題~リサイクル業の今後の展望

新型コロナウイルスの世界的な流行や世界情勢の不安定化などの環境変化が立て続けに起こり、まさに現代は今後の予想がしにくいVUCA(ブーカ)と呼ばれる状況に陥っています。
そのような状況下においても経営を存続していくためには、環境変化に対応できる戦略を立てることが企業には必要です。
ここでは企業支援の専門家が、業界別に現状と今後の展望を解説します。

この3年間、私たちはパンデミック、ウクライナ戦争、そして物価の高騰の影響を受けてきました。こうした中、コロナ以前から課題となっていた地球温暖化防止策として脱炭素社会へ向けた「ゼロエミッション」が再び注目されています。

ゼロエミッションとは、「2050年を目途に、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」ことです。企業活動や市民生活から排出される廃棄物を、リサイクルや排出量縮減を通じて限りなくゼロに近づけることも意味しています。アメリカを始め日本やヨーロッパの主要先進国もゼロエミッションに向けて動き出しています。
カーボンニュートラルは、「CO2などの温室効果ガス排出量を実質ゼロにする」ことで、廃棄物の対象が温室効果ガスに限定されています。一方でゼロミッションは、「温室効果ガスを含めた廃棄物全般の排出ゼロを目指す」ことなので対象範囲が広域です。

リサイクル業は、ゼロエミッションの課題解決に最も近い業界といえます。自社内のCO2排出量を抑制するだけでなく、「ゼロエミッション」の課題を解決するサービスを提供することができれば、環境問題解決企業として事業を大きく伸長させることができるでしょう。

 

ゼロエミッションに向けた取り組み

ゼロエミッション実現に向けて行政が取り組んでいる事例を挙げます。
●国による「エコタウン事業」
エコタウン事業は「ゼロエミッション構想」を基本構想として平成9年に環境省が創設した制度で、承認された26の指定地域をエコタウンとし、産業廃棄物の処理問題や地域経済の向上を目指しています。
●東京都の「ゼロエミッション東京戦略」
東京都は2019年12月に「ゼロエミッション東京戦略」を策定・公表し、東京の平均気温上昇を1.5℃に抑えることを目標に掲げ、最終的には2050年までにCO2排出ゼロを目指すものです。6つの分野と14の政策にわかれておりその内容は環境問題全般を網羅し、そのなかの資源・産業セクターでは3R(リユース、リデュース、リサイクル)の推進やプラスチック対策、食品ロス対策を掲げています。
●ゼロエミ・チャレンジ
経済産業省は、脱炭素社会を実現するために果敢に挑戦する企業をリスト化しています。2021年10月に開催された「TCFDサミット2021」では、上場・非上場企業あわせ約600社もの企業が「ゼロエミ・チャレンジ企業」として発表されました。ゼロエミ・チャレンジ企業に選ばれるということは、企業のイメージ向上につながりやすいので、企業にとっても投資を受けやすくなるというメリットがありますが大企業が多くを占めています。

 

ゼロエミッションの課題

●コストアップによる経済の圧迫
温室効果ガスを出さない太陽光や風力・水素・バイオマスなどの再エネの導入や発電コストは現状では高いため、導入には新たなコスト負担が発生するため、これらの低コスト化が課題となっています。
●再生するために更なるエネルギーが必要
廃棄物を資源として再利用する際に加工等でエネルギーを使用するため温室効果ガスを排出する、工場の自動化やオンライン化でより多くの電力やエネルギーを使うといった懸念があり、これを解決することが求められます。
●「資源循環」に向けた取り組みの必要性
単に廃棄物を減らすのではなく、資源が循環するシステムを社会として作り出していくために、産官学の連携や異業種連携も必要となってきます。
リサイクル事業のなかで廃棄物処理・資源有効利用分野は脱炭素社会へ向けた「ゼロエミッション」の課題解決に必要不可欠なものとなっています。電気、ガス、水道事業と同様に、リサイクル事業は社会インフラとして人々の生活を豊かにする事業として社会に貢献する事業と認識されるようになりました。

 

リサイクル業界の現状

廃棄物処理・資源有効利用分野の市場規模は47.8兆円です。2009年に景気減速の影響を受け、落ち込んだものの、その後は堅調な成長を遂げています。「廃棄物処理、リサイクル」分野の市場は安定しており、動脈産業からの廃棄物受入、資源回収といった「資源、機器の有効活用」分野は、市場の成長を牽引しています。

【図表】廃棄物処理・資源有効利用分野の市場規模推移


出典:「環境産業の市場規模・雇用規模等に関する報告書」
環境省大臣官房環境計画課環境経済政策調査室

 

リサイクル業の課題

まず、リサイクル事業では、環境問題と利益追求の両方を意識して事業展開することになります。不用品を買い取り、修理・清掃を行い再び市場に流すリユースビジネスに比べて、事業を行うための設備投資資金が高額となります。廃棄物の保管施設、リサイクル施設などの設備投資に資金が必要となります。

また、環境に優しい商品を生み出しただけでは、既存商品や競合企業が生み出すリサイクル商品・リユース商品との競争に勝てません。近年、リサイクルやリユース以外に「アップサイクル」と呼ばれる、廃棄物に付加価値を高めて商品として販売することも活発化しています。このように、顧客に受け入れられる高付加価値商品を生み出すことが重要になっています。

<リサイクル業の今後>
今後、ゼロエミッションや大量生産・大量消費・大量廃棄型の線形経済から、循環経済(サーキュラーエコノミー)への移行が余儀なくされます。こうした環境下でリサイクル事業者は、自社のリサイクル商品が顧客にとって、また地球環境にとってどのような付加価値を提供できるかといった大きな視点で、事業及び商品戦略を構築することが重要となります。
単なる産廃事業者から社会貢献型・環境問題解決型企業への脱却を経営課題とし大きく飛躍するチャンスでもあると言えます。

※サーキュラー・エコノミー:従来の3Rの取組に加え、資源投入量・消費量を抑えつつ、ストックを有効活用しながら、サービス化等を通じて付加価値を生み出す経済活動

 

【図表】循環型社会

出典:「廃棄物分野における地球温暖化対策について」環境省 環境再生・資源循環局