column コラム

2021/10/25 組織

「人づくり」から考える企業経営について

(第48話)

会社の資源の中でも「ヒト」は「モノ・カネ」などその他の経営資源そのものを動かす、最も重要な要素です。但し、単に人材に投資をしたからといって人的資源は潤うものではなく、組織全体で育むことが大切です。人づくりは一部の部署や担当者に依存するものではなく、企業全体で取り組んでいくべき重要なテーマだと言えます。

あなたの会社の人材が「人財」となりうるために、「人づくり」から企業経営を考えてみましょう。

 

「ボトムアップ経営とは?」

 

企業経営において、意思決定の型として「トップダウン」と「ボトムアップ」という2つの方式があり、これら2つは対比関係になります。今回は、企業の安定経営においてなぜ人づくりが重要なのか、またその人づくりにおける「トップダウン」と「ボトムアップ」の違いの観点から、ボトムアップ経営の意義についてお話していきたいと思います。

 

《ボトムアップ経営とは?》

上述したように、企業の意思決定には「トップダウン」と「ボトムダウン」の2つの方式があります。トップダウンは社長やCEOなどの、文字通り企業のトップに立つ人間による意思決定が現場の社員に指示・命令として伝わり、現場の社員はそれを受けて実行部隊として行動します。一方でボトムアップとは、日本語で言うところの「下意上達」、企業の現場のメンバーの提案や意見を上層部が吸い上げることで意思決定を行うスタイルを指します(下図参照)。このボトムアップによる意思決定には、企業にとって以下のようなメリットがあります。

 

【ボトムアップとトップダウンのイメージ図】

 

《ボトムアップのメリット》

①現場の裁量が増える

ボトムアップを採用することで、現場のやる気改革につながります。ボトムアップは社員の個人の力量も試すことができ、新たな発想や展開につながる効果も期待できます。現場の社員であっても与えられた仕事をするということだけでなく、自ら進んで仕事を効率アップさせたり、新しいことに取り組むことができるので裁量が増えます。

 

②社員のモチベーションアップ

ボトムアップは個人の発案が採用されてプロジェクトが進んでいくことに喜びを感じることができます。そのため、個人のモチベーションアップにつながるというメリットがあります。個人の発案が通ることにより、ボトムアップが実行されているとう実績ができ、その他の社員のやる気やモチベーションの向上にもつながります。仕事にやりがいや楽しみが増えることでと、社員のチャレンジ精神が湧くことも期待できます。

 

③社員の責任が増す

ボトムアップは社員の責任を増すためにも最適といわれています。自分の発言の重要性を養うことができるため、結果的に責任力のアップにつながります。社員は仕事を与えられるだけであると、仕事に対しての責任感を理解しづらく、身につかないことがあります。自ら発信した案がプロジェクトとして動くことで、必然的に責任が向上することになります。

 

《ボトムアップのデメリット》

一方で、ボトムアップはいいことばかりではなく、デメリットも潜んでいます。

①部門間の意見の対立

ボトムアップを取り入れることで誰しもが発言権を得るようになり、自身の属する部門に固執した意見が多くなりがちです。そこから部門間の対立が発生する可能性があります。ボトムアップを実施する際の基本的な注意点として、自分の仕事や部門を中心に考えるのではなく、企業全体を見る必要があります。一般社員に関しては、視点が狭いこともあり偏った意見を発言してしまう可能性がデメリットとして考えられます。

 

②決定までに時間がかかる

ボトムアップを取り入れると、一般社員からの発言がある場合、最終的な判断に時間がかかる場合があります。例えば、幹部会議の中で提案書が提出された場合、最終権限を持つ人間が同席しており、その場で決定が下される場合があります。それに対して、ボトムアップは一般社員の提案書が上層部に提案されるまでにも時間を要することが多く、仕事の流れがスローになることもあります。

 

以上のように、ボトムアップ経営にはそれぞれにメリットとデメリットを含んでいます。対となる考え方のトップダウン経営とのメリットとデメリットの比較をまとめると、以下のようになります。

 

【ボトムダウンとトップダウンの対比】

 

《ボトムアップを安定経営につなげるには》

ここまで述べたように、企業の意思決定にはトップダウンとボトムアップの2つの型があり、それぞれにメリットとデメリットが潜んでいます。その上で、ボトムアップを安定経営につなげていくためには、以下に挙げる3つの視点が重要になってきます。この3つをクリアにして、自走する組織としてのボトムアップ経営が、企業の安定した経営にもつながっていきます。

 

ポイント①「可能性を観る」

ボトムアップ経営において「可能性を観る」ということは、重要な視点の1つです。現時点、もしくは短期的な目線で「できる」「できない」の判断を行うのは得策ではありません。トップや上層部が目の前の出来事や耳に入ってくることだけに惑わされずに、常に長期的な視点で組織や人材を見ること、企業が成長途中であることを意識して、その成長の可能性に視点を置くことが重要です。

 

ポイント②「個性の重視」

ボトムアップ経営において重要な2つ目の視点は「個性の重視」です。社員にはそれぞれ個性があり、強みも弱みも一人一人が異なります。積極的に動き、物事を創造することに長けた人もいれば、目立たないけれど与えられた業務は堅実にこなし、また常にリスクを想定し、それに備えた仕事を黙々と担う人もいます。それら個々人の違いを認識して、社員一人一人が最大限に力を発揮できる環境作りが非常に重要です。そういった土壌を作り上げることで、社員のやる気に満ち溢れた、しなやかで多様性があふれる強い会社が出来上がります。

 

ポイント③「役割」

ボトムアップ経営における3つ目の重要な視点は社員の「役割」に目を向けることです。会社というものは社長を頂点として、社員をボトムとする三角形の組織で作られています。たしかに「会社人の集まり」としてみた場合には上下関係にありますが、「人の集まり」としてとらえた場合にはそこには本質的な上下関係は存在しません。『生まれた年代も、場所も背景も違う「ひと」が会社というビジョンの形にたまたま集まって役割を担っている』という視点が大切です。この視点によって、社員一人一人にとって、貢献できている自己認識とそれを認めてくれるひとの存在を生み、やる気が内側からみなぎってきます。このやる気の源泉につなげるためには、社員一人一人がどういった役割を担っていて、今自分が会社全体のどの部分にどのように貢献できているかを知ることが重要になってきます。

 

ボトムアップの考え方が必ずしも正しかったり、また企業経営を成功に導くものではありません。ボトムアップ経営の実現には企業の経営者や上層部が社員一人一人の個性を認め、役割に目を向けることです。そして、現場の社員は自らの役割を意識して、会社への貢献を具体的に認識して、自らのモチベーションのアップにつなげていくことが重要です。