~未来への展望~長期的なビジョンと成長
中小企業の経営戦略において、リスクとチャンスは欠かせない要素です。急変する市場において事業を継続するには、リスクを冷静に評価し、チャンスを見極める力が重要です。最新の事例と具体的な手法を交えつつ中小企業の戦略的経営について考えます。
今回は、中小企業が将来を見据えた長期的なビジョンを持ち、変化する環境に適応するための戦略の考え方について解説します。
ビジョンを日本語に直訳すると「見通し、展望、構想」という言葉が出てきますが、経営ビジョンとは会社として理想的な状態=「あるべき姿」を示すものです。しかし規模の大小を問わず、会社として「あるべき姿」と「現状」には少なからず乖離があります。その乖離のことを「ギャップ」と呼び、そのギャップを埋めるためのものが「経営戦略」といえます。
長期的なビジョンを策定する目的について
ビジョンとは、事業のある一定期間での最終的な到達地点であり、理想的な姿です。
以下が策定のメリットとなります。
■従業員とのビジョン共有化により、企業としての一体感が醸成できる
従業員とビジョンを共有化することにより向かうべき方向が定まり、全社が一丸となり事業推進を行うことができます。
■社外のステークホルダー(顧客等)からの信頼を得ることができる
人々が共感を持てる経営ビジョンを策定し、社外に発信することができれば、ステークホルダーからの信頼を得ることができ企業価値の向上が見込めます。
■経営戦略を具体的に策定することができる
会社としての到達地点が明確になれば、「あるべき姿」にまでたどり着く方法である「経営戦略」を策定することができます。大企業のみならず、中小企業にとっても変化の激しい市場に対応していくためには、自社の経営戦略を立案し、実行していく重要性は認識されているところです。
経営戦略のイメージと長期的なビジョンについて
経営理念が上位概念となり、会社としての考え方、行動のベースとなります。そこから経営ビジョンを策定し、具体的な経営戦略へと落とし込んでいきます。詳しくは後述のビジョン策定方法にて解説を行っていきます。
長期的なビジョン及び経営戦略の策定方法
<経営戦略策定フロー図>
■経営理念の明確化
経営ビジョンについては、経営理念に基づき策定されます。経営理念とは、その企業の考え方のベースとなるものであり、企業を経営していくなかで、経営者の考え方や哲学、活動方針などを明文化したものになります。その考え方と大きく外れた経営ビジョンは適切ではありません。中小企業については明確にされていない場合は、言語化し具体化させる必要があります。
経営理念を浸透させることにより、従業員が普段仕事を行う上での考え方のベースとなり、意思統一が図れます。
<経営理念の明確化の方法>
・ 会社を立ち上げたときの経緯、どんな考えを持っていたかを書き出す。
・ 経営者が大切にしている言葉(座右の銘など)を複数抽出し、その中からさらに言葉を選ぶ。
・ こうありたい姿を思い浮かべ、選んだ言葉から経営理念を考え出す。
■経営ビジョンの明確化
長期的なビジョンを策定するにあたり、会社のあるべき姿を設定します。
ビジョンについては定性目標と定量目標があります。
<定性目標>
数字では表せない部分の会社のあるべき姿を定性目標といいます。
例えば、「顧客満足度を向上させる」「地域の顧客が自社のファンになる」「従業員が生き生きと働き、その家族にも認められる会社となる」等です。
<定量目標>
経営ビジョンを数字で示す場合は、一番わかりやすいものが売上高や、利益額です。
「売上高●●億円」や「経常利益●●万円」という表現で、明確に数値を使って設定を行います。その他にも顧客満足度、顧客獲得数、展開店舗数などの項目も考えられます。
例えば、「5年後にお店を任せられる店長を育成し、地域に10店舗展開する」といった書き方が考えられます。
例)オリエンタルランドのビジョン
現状分析とSWOT 分析
戦略策定時においては、現状分析を最初に行うことが多いですが、現状分析を行ってから「あるべき姿」を設定すると、あくまで現状の延長線上での計画となりがちです。会社としての理想像を描いてから現状を分析し、理想像とのギャップを確認していくほうが大きな視点でビジョンを設定することができ、良い戦略策定につながります。
現状分析については一般的にSWOT分析が用いられます。自社に関する情報である内部環境と、自社を取り巻く状況である外部環境を分析し、プラス面とマイナス面に分けて整理をするフレームワークです。内部環境、外部環境を抽出した中から、4項目を組み合わせる「クロスSWOT」を行い、戦略となるオプションを立案していきます。
まとめ
以上、経営ビジョン設定の目的とそこから戦略的な経営に結び付けるための経営戦略策定方法について、解説を行ってきました。
しかし、ビジョンを設定し、経営戦略を策定しただけではあるべき姿にたどり着けません。立案した戦略を確実に実行していくことが必要であり、都度PDCAサイクルを回していく必要があります。
実行段階においては、設定した期間ごとに経営ビジョンの達成状況を確認しましょう。うまくいっている場合はその要因を分析し、目標達成のスピードを上げていきます。うまくいかなかった場合は、必要に応じて修正案を考えます。場合によっては経営ビジョンに立ち戻り、必要であればビジョンの再設定および戦略の再策定が必要となります。