~激変の嵐をまともに受けた~運送業の今後の展望
令和2年中国の武漢で発生した新型コロナウイルスの世界的な流行やウクライナに対するロシア軍の侵略によるサプライチェーンなどの崩壊が立て続けに起こり、人々は、まさかと思っていたことが現実となる「まさかの時代」に生きていると言うことになります。
そのような状況下においても経営を存続していくためには、環境変化に対応できる戦略を立てることが企業には必要です。
ここでは企業支援の専門家が、運送業の現状と今後の展望を解説します。
運送業の概況
運送業は、鉄道輸送や内航海運にとって代わる時代の要請として大きな発展を遂げて来ました。
平成30年の物流事業市場規模約29兆円に対しトラック運送事業の市場規模は約19.4兆円で物流市場全体の約7割を占めるに至っています。とりわけ営業用トラックの輸送活動は広く、農水産品、食料工業品、日用品といった消費関連貨物をはじめ木材、砂利、石材などの建築関連貨物や金属、機械、石油製品などの生活関連貨物などありとあらゆるものを輸送しています。
運送業の経営環境
平成2年12月に施行された物流二法により事業参入が免許制から許可制へ、運賃料金についても認可制から事前届け出制へと大幅に参入障壁が緩和され、新規参入業者の増加ならびに市場競争の激化をもたらしました。
続いて平成15年4月に「貨物自動車運送事業法」が改正され経済的規制がさらに緩和、平成30年12月働き方改革の実現をめざしトラックドライバーの労働環境を改善することを最優先にトラック運送事業の健全性に資する措置を早急に実施していくための施策を議員立法で成案させたのです。
中小の運送業者に起こっていること
もともと運送業を開業するには、車両を含め事務所や管理備品も必要です。加えて車両の更新や修理、車検費用はもちろん燃料費などのランニングコストを含めると、旅館ホテル業と同じく設備産業にジャンル分けされても不思議ではないように思います。
黎明期や近年において、運送業は収益も上がり潤沢な資金を確保出来ていました。運送を依頼する業者が自身の業績を伸ばすために躍起になっていたこともあり、運送依頼も潤沢にあり運賃の価格交渉も比較的簡単に受け入れてもらえる環境にあったと推測されます。
また、トラック車両の購入にかかる費用も今ほど高額ではなく取得できた為、トラック業界は潤い参加事業者の大半は相応の利益を確保できていたものと考えています。
しかし、上記の法律改正により荷主からの収益は細り、且つ仕事量も他社への分散により確保が難しくなったとたん、事業運営に逆転現象が起こってしまったのです。
つまり、荷主との価格交渉が必須になったものの、値上げ交渉に臨むと首を縦に振ってくれないばかりか、取引解消の憂き目にあう可能性があり、なんの勝算もなく交渉の席につ
くことさえ憚られる状況にあるのです。
加えて、ウクライナ侵略にともなう燃料油脂費の高騰(令和2年から令和4年まで約1.5倍に高騰)や運転手不足(低賃金・労働時間の長さ)物流の停滞などが、一気に襲い掛かりコロナ禍以降急激に収益悪化をまねいている中小運送業者も多く存在します。
運送業者の今後の展望
トラック運送業者を取り巻く環境変化は多岐にわたり改革への難易度は高いと言わざるを得ません。
その中でも、優先順位をつけて今取り組まなければならないポイントを3点に絞って解説します。
① 淘汰される側から、切られない側へ廻り込む。(業態変更)
請負い価格のみの競争では、1円でも安い価格を提示した業者が受注します。
したがって継続的に受注を維持しようとすればするだけ無理な価格設定が必要となり、無駄に収益を毀損する原因となります。
では切られない(選ばれる)側に廻り込むとはどういうことでしょうか。
それはただ単に荷物を運ぶだけの事業でなく、それに付随した業務を同時に担うこと、切りたくても代わりの業者がいない状況を作ることです。
物流を維持するためには物流倉庫の存在が不可欠です、商品を保管する場所が必要なのです。
したがって自社倉庫があり、その商品の運搬を受注している業者との契約を破棄する場合、運搬業者と保管場所を同時に探さなければならず、実務的にはその企業との受注関係を
継続しようとする力が働くのです。
また、受注業者の商品にマッチした規格のトレーラーを所有していたり、冷蔵・冷凍などの特殊車両の保有が取引解消の抑止力として働くこととなります。
しかし、これら選ばれる業態への転換には倉庫建築費用等の資金が必要となります。
「事業再構築補助金」やその他の助成金などを活用し2〜3年後を見据えた事業継続(雇用継続)に注力すべきです。
② 労働力不足への対応(女性ドライバーの登用)
トラックドライバーの多くは50歳以上の男性(全体の45.2%(令和3年度))であり、前述の通り低賃金・労働時間の長さが影響し、若年層の参入がすすんでいません。
しかし、最近の傾向として若い女性がトラックドライバーとして参入を果たす事例が顕著になりつつあります。令和3年の統計によれば女性の就業者は全体で20.0%、運転従事者
で3.6%と依然として低い割合であり、これからの伸びしろに期待がかかります。
一般的には、労働環境の整備や手荷役をパレット積みに変更すること、長距離輸送を回避するための施策の導入、待ち受け時間の短縮など業界全体が抱えている問題に積極的に取
組むことが求められています。
③ 金融機関(メイン行)との響働
統計によると、運送業の支出項目で人件費や燃料油脂費が高騰し営業利益段階で赤字に転落している事業者の方も少なくないでしょう。コロナ禍以降収益が急激に悪化した事業者は物流が回復し、軽油の値段が安定すれば、おのずと以前のような収益体質に戻れるかもしれません。
しかし、コロナ禍以前から収益を確保できていなかった事業者はコロナの緊急融資を調達し総借入が膨れ上がることにより、月々の約定返済にも支障をきたしているかもしれません。
ここでは、取引金融機関おもにメイン銀行とのコミュニケーションが図れていますか?と質問させて頂きます。
メイン銀行との情報共有において現時点における「窮境要因」の把握「経営改善計画書」の作成により、改善策を策定し5年後の数値計画に基づいたアクションプランを明示する
ことが求められています。
原因の究明と新たなビジョンを明示し、従業員と共に会社を再建する覚悟が必要です。従業員や取引金融機関に丁寧な説明を繰り返し実施し一人でも多くの味方を得なければ膨れ
上がった債務を完済にこぎつけることはできないと心してください。
まとめ
今まで述べてきたように運送業界を取り巻く環境は多難を極めていると言っても過言ではないです。
しかし、少なからず打つ手は残っています。
微力ではありますが経営者の方のお手伝いが、何らかの形で出来ればと考えております。