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2022/08/19 ブランディング

小売り業界だけじゃない!業界別スモールブランディング

「ブランディング」という言葉を耳にしたとき、どういったイメージを持たれるでしょうか?何十万円もする海外メーカーの高級バッグ、マンションが買えるくらいの超高額な自動車、年収よりも更に高い腕時計など、高級な「モノ」に付されているイメージをされるかもしれません。しかし、世の中のブランディングの成功事例は「高級品」や小売業界を始めとする「モノ」だけではありません。今回は様々な業界の、お金をかけずに成功したブランディングの事例を紹介したいと思います。

 

「小売り業界だけじゃない!業界別スモールブランディング」

前回は、ロゴや見た目などの視覚的な情報を使ったブランディングの例をご紹介しました。今回は必ずしも見た目からではない、様々な業界のブランディングをいくつか紹介したいと思います。

改めてブランディングの定義についてお話すると、ブランディングとは「ある商品やサービスを、別の(類似した)商品やサービスと区別するための一連の要素」を明確化することです。前回ご紹介したロゴマークや商品のデザイン、商標、名称、キャッチフレーズ、記号などブランドを形作る要素は様々です。「〇〇と言えばあの商品」、「□□といえばあのお店」といったように、他社との区別=独自性を打ち出す要素とも言えます。では、大企業や有名ブランドではなく、しかもモノ(商品)を扱っているわけではない企業やお店で、ブランディングに成功しているところはどの様な施策を行っているのでしょうか?

《① 歯科医による利便性を打ち出したブランディング》

ある歯科医院のブランディング事例を紹介します。

「歯科医でブランディング?」と感じる人も多いと思います。モノを扱わない歯科医でも自院の特徴を打ち出し、ブランディングにつなげることは可能です。この歯科医は平日22時まで、土日・祝日も診療が可能であることが一つの特徴です。近隣には同様の歯科医は存在せず、他院と比較しても優位性を築けている状態です。

そこで、この歯科医ではホームページで夜間や休日でも診療が可能なことを前面に打ち出したことで、多くの患者が訪れる歯科医へと成長しました。もちろん、利便性だけでなく、治療の安全面や技術的な情報、診療方針なども情報として発信することで利便性と安心感を利用者に与えることで、利用者の中で独自の優位性=ブランドを築き上げることに成功しました。多忙な方たちや、平日は中々時間が取れずに歯科医への通院から遠ざかっている人をターゲットとし、「時間を気にせずいつでも通える歯医者さん」といったコンセプトで利用者からの支持を得ているこの歯科医は、ブランディングの成功事例と言えます。

 

駅チカと夜遅い時間や休日・祝日も診察を行っていることを前面に打ち出して、他院との差別化を図っている。

平日は多忙なサラリーマンや主婦層からもニーズは高い。

《② 飲食店のブランディング「限定〇〇食」》

次は飲食店のブランディングです。

この飲食店の事例では、高級な食材や味、価格の安さを使ったブランディングではなく、1日に提供できる数を限定数とすることで、予定数量に達した時点でお店を閉めるというものです。人は希少性のあるものを欲しくなるという心理が働く傾向がありますが、あえて一日あたりの提供数を限定にしたことで、そのことが話題となり、口コミ効果だけでなくマスコミの取材やテレビ番組でも紹介され、このお店の知名度は広まっていきました。

また、このお店のもう一つの特徴は、提供数を限定とすることでフードロスをゼロとすることです。1日あたりの必要な材料だけを仕入れ、無くなれば閉店というスタイルであるため、閉店後には食材は何も残りません。ムダな仕入が発生しないことで安定した経営につながるだけでなく、フードロス削減に貢献することで、昨今のSDGsの観点からも、このお店の価値をより高めています。「希少価値が高く、食べ物を無駄にしない。」回転数や多店舗展開で事業拡大を図る企業が多い飲食業界の中で、独自路線による差別化に成功したこのお店も、「ブランディングに成功した」事例と言えます。

《③ シニア限定の人材派遣会社》

次に紹介するのは、シニア人材専門の人材派遣会社です。

この会社の入社資格は「60歳以上~75歳」という、まさにシニア人材専門の会社です。ひと昔前までは「60歳以上の人たちは定年を迎え、年金を受給して老後の生計をたてる」といった考え方が主流であったかもしれません。しかし、この会社では「人間、働き盛りは65歳」と考え、60歳以上の方限定で採用をして注目を浴びています。高齢の方々に働く場所を提供してあげるのではなく、高齢の方々を働く戦力として考え、雇用することで、他社にはない独自の価値を高めています。

現在では、この企業は全国に同様のビジネスモデルを普及させており、今後高齢化が益々進展する日本において、まさに画期的なビジネスモデルを築いたと言えます。独自の採用方法により、他社とは差別化された優位性を築くことができたこの企業は、まさにお金もかけず、目新しいロゴや派手な宣伝広告も行わずに、ブランディングに成功した事例であると言えます。

高齢者を労働における「戦力」として捉え、気力・体力・知力のある人たちに「働く場」と「生きがい」を提供している。豊富な知識や経験が、労働者自身にとどまらず、地域の活性化にもつながっている。

 

 

《④ 誰よりも投げ銭を集める大道芸人》

最後に紹介するのは、誰よりも投げ銭を集めたパフォーマーの事例です。

その路上パフォーマーは「ちょっと下手」だと思われる演出を随所に盛り込んでいます。ジャグリングを何度も落としそうになったり、高いところに登る前に胸に手を当てて深呼吸をしたり、登ったあとは何度もフラついて危うく落ちそうになったり、降りるときも観客の方を借りて何とか降りることができる、といった演出を織り交ぜます。

このパフォーマーは「弱さ」を観客に敢えて開示して親近感を感じさせることで、興味を引き付けます。結果的に顔色ひとつ変えずに軽々とやってのけるパフォーマーよりも、ハラハラ感や思わず応援したくなる親近感が、このパフォーマーの個性=ブランドとなって他のパフォーマーとの差別化を図り、独自の価値を打ち出すことに成功しました。もちろん、この事例もお金も使わず、ロゴやプロモーションを一切行わず、自身のブランディングに成功した事例です。

 

以上、4つのブランディングの成功事例をご紹介しましたが、如何でしたでしょうか。大企業でなくても、海外の有名ブランドでなくても、ちょっとしたアイデアや工夫で独自性を打ち出し、他社との差別化を図ることは十分可能です。日常生活の中でも、少し目線を変えたり視野を広げることで、身近なブランディングのアイデアが転がっているかもしれません。是非、取り組んでみて下さい。