資金調達の為の事業計画
銀行出身の中小企業診断士である事業再生専門家の視点から、事業再生の状態に陥らないために、「転ばぬ先の杖」として知っておいていただきたいことをお伝えしていきます。今回は、資金調達への道が開ける事業計画の立て方についてお話いたします。
■事業計画書の目的
事業計画書とは、「事業理念」「事業概要」「経営方針」「実行計画」「数値計画」等を記した書類です。経営者の中には、「頭の中に入っているから作成しなくて大丈夫。」という声も耳にします。
では、事業計画書は誰のために、何を目的として作成するのでしょう?
まずは「経営者自身」のためです。事業を進めていく上で、複雑で多岐にわたる課題に直面します。事業計画を作成する過程では、その課題を事前に整理します。これにより、何をすべきかを明確にした上で行動できるため、事業の実現可能性が高まります。
続いて「一緒に働く仲間」のためです。事業計画は事業の羅針盤として、そこで働く仲間全員がどの方向に向かって進んで行くかを指し示します。
最後に「金融機関等の利害関係者」のためです。新事業の立上げや、事業の拡大を図ろうとしたときは資金が必要となります。そのような時に、実現可能性の高い事業計画を示すことができれば、資金の調達や、その他の必要なサポートも受けやすくなります。
■資金調達のための事業計画
これまで金融機関は、担保や保証が十分な返済可能性が高い案件に積極的に融資をしてきたことはよくご存じのことと思います。しかしながら最近は、担保や保証に偏重し過ぎないという方針も取られ始めています。それを事業性評価融資と言い、過去の決算データ、担保、保証に過度にとらわれず、商品の市場性や技術力といった事業内容やその将来性を適切に評価し融資判断を行います。
そこで、自社の事業内容や計画を金融機関の人達に知ってもらい、その将来性を理解してもらうために事業計画の重要性が増しています。特に決算数値に現れないような技術力やその市場性、取引先との関係性等、自社独自の「強み」を分析し計画書に反映していくことで、これまでとは違った良い評価を金融機関から受けることができ、担保や保証が十分でなくても、資金調達への道が開けてきます。
■事業計画作成のポイント
まずは現状把握です。決算書の数値だけでなく、数値に現れない事業性を自己分析しましょう。資産負債、損益、借入金、担保の状況の把握だけでなく、ビジネスモデル、強み・弱み、課題の説明が重要です。「商品サービスの市場性、成長性、技術力の高さ、開発力」、「優秀な人材があり、強固な組織力があること」、「自身の経歴・経営能力・人間性、後継者が存在すること」など、特に「強み」は徹底的に把握してください。
次に実現性の高い計画であり、目標ではないという事です。細分化され、信憑性のある売上、費用予算であることが大切です。数値計画(売上高、固定費、変動費、経常利益)を立て、損益分岐点売上高を確認します。損益分岐点は利益が0となる売上高で、利益を出す為にはそれ以上の売上が必要です。売上の予測は難しくお客様の人数、単価、天候、競合店等様々な要因に左右されます。その為売上予算より1~2割減少したケースも想定しておくといいでしょう。それでも損益分岐点を上回れば利益確保は大丈夫と思われ、下回る場合はどの費用を削って計画を修正していくのか、説明できることが必要です。売上、費用予算を達成する行動計画(いつ、だれが、どのように、何をするか)の明示も重要です。
最後に借入の返済に問題がないことです。利益が出ていても、設備投資が過大で返済額が大きすぎる場合や、仕入資金を先払いで支払い、売上代金の回収が遅くなる場合は、資金不足に陥いる可能性があります。そのために資金繰り計画をたてましょう。資金繰り表は、企業の家計簿であり日々と月々の現金残高予定を管理します。所要資金がいくら必要か把握し、借入の毎月返済額を計算して資金繰り表で現金に余裕があるか確認しましょう。
■まとめ
ポイントを押さえた、信頼性のある事業計画を作成すれば、現状把握、事業の強み、将来の数値計画が把握でき、予期せぬ事態にも対応しやすくなります。同時に、資金調達の際は、金融機関からも事業性が評価され、数値の信憑性も高いことから融資を受けやすくなります。