column コラム

2022/02/22 事業再生財務

銀行との付き合い方

銀行出身の中小企業診断士である事業再生専門家の視点から、事業再生の状態に陥らないために、「転ばぬ先の杖」として知っておいていただきたいことをお伝えしていきます。今回は、事業をスムーズに進めるため、良好な関係を築いておきたい銀行との付き合い方についてお話いたします。

 

■銀行と信頼関係を作る

“銀行は雨の日に傘を取り上げ、晴れの日は傘を差し出す”とよく比喩されています。これは、“業績が悪い時にはお金を貸してくれず、良い時にはお金を貸してくれる”といった内容を例えたものですが、本当にそうでしょうか?

 

銀行は、企業の財務内容が悪いといった理由だけで、融資に前向きにならないという訳ではありません。もちろん、銀行にとって企業の財務状況の良し悪しは、融資判断をするにあたって大きな要素であることは間違いないのですが、実際、銀行は赤字の理由や今後の事業展開、経営方針や市場動向等、詳しい内容を理解できないからそのような対応になっていることも多いです。それらを解決するためには、銀行と常日頃から接点を持ち、会社の状況をよく知っておいてもらうことが大切です。

 

会社の状況を知ってもらうための基本は、事業計画書と月次試算表、資金繰り実績・予定表等の現況がわかる資料を用いた定期的な状況説明です。内容としては、事業計画との差異や原因と対策、収益や資金繰りの実績と予定をベースに、必要な資金の有無などを説明、または打診するのが良いかと思います。

また、決算書が出来上がったタイミングにおいては、1年間の総括と、今後の計画について説明し、銀行の考えや意見も聞きながら、重要なステークスホルダーとして相互の理解を深め、より良い信頼関係を築いて下さい。

 

■メイン銀行を作る

業種を問わず、どんなに優良な企業であっても、数年もしくは数十年のサイクルで業況に変化があります。業況が芳しくないサイクルに入った時、資金調達面で頼りになるのがメイン銀行です。銀行は融資姿勢を決める上で、自行がメイン行であるか否かを重要な判断基準としています。取引行が複数ある場合、メイン行が積極支援をする立場を取るかどうかで、全体的な金融支援の方向性が全く変わってくるからです。メイン行主導の下、各金融機関が協調して支援体制を築けるかがそこで決まります。

 

一般的にメイン行とは、借入金残高が最も多く、小切手や手形決済のメイン口座がある銀行のことを指します。ただ、それ以上に取引先として重要な位置づけにあることを相互に認識していることが大切です。それには、上述した通り相互に理解し合った信頼関係を築いておくことが極めて重要です。

 

■複数行と取引をする

通常の事業取引の場合も仕入先等を1社に限定することはないと思います。安定的な部材調達のため、メイン取引先との良好な関係を維持しながらも、倒産等の不測の事態に備え、複数社と取引をすることが一般的です。また、相見積による取引条件の最適化や業界情報の収集を行う上でも、複数取引は有効な手段と言えます。

それは銀行取引においても同様です。

好条件を引き出すために必要以上の競争を促したり、策略的な交渉を行うことは信頼関係を崩してしまうので控えるべきですが、正当な競争は相互にとって良い緊張感になり、健全な取引関係の維持に役立ちます。

また、融資判断は各銀行によって異なるため、セカンドオピニオンとして異なった側面からの意見を聞けるというメリットもあります。その他、一行では対応しづらい調達案件もメイン行主導のもと、既存取引行による協調融資という形態も可能になります。

 

■まとめ

商品やサービスのサイクルタイムが短くなる昨今、突然に業況が不安定になることもあります。逆に事業拡大の機会に恵まれることがあるかもしれません。

そんな時、銀行を通じた資金調達の機会が増えます。決算書を出していれば銀行は理解してくれているだろうと思いがちですが、それだけでは経営者の考え方や事業への取り組み方、特徴や商品等の市場性など大切な事業の「エッセンス」を理解してもらえません。融資を判断する銀行の役職者は、そういった情報を欲しています。

安定的な事業運営や事業拡大を達成させるため、銀行との定期的な情報交換で良い関係を築いていきましょう。