column コラム

2024/03/15 経営

~パートナーシップの構築~リスク共有と協力

中小企業の経営戦略において、リスクとチャンスは欠かせない要素です。急変する市場において事業を継続するには、リスクを冷静に評価し、チャンスを見極める力が重要です。最新の事例と具体的な手法を交えつつ中小企業の戦略的経営について考えます。

今回は、事業拡大の局面でとられる戦略的経営手法としてのパートナーシップの構築について解説します。戦略的パートナーシップは戦略的業務提携のことで、二つの企業が互いに独立したまま、双方の企業にとって有益なプロジェクト等のために提携し共同で目的を達成するものです。
大企業の戦略のイメージがありますが、経営資源が少ない中小企業こそ、外部資源の活用という観点やリスクの共有・分散という観点からも、互いに協力し合える関係を構築し共に発展している関係を構築できることは効率的な戦略といえます。「パートナーシップは、事業改革の手段として最も手っ取り早く効果的なものである」と言われています。

戦略的パートナーシップ

競合と差別化を図り競争優位を1社で築くことは容易ではありません。たとえ1商品がヒットしたとしても、優位性を維持していくためには更なる努力と困難が伴います。
企画、生産、物流、卸売、小売、アフターサービスまでのすべてのバリューチェーンを自社内の経営資源でまかなうのは困難です。バリューチェーンの概念図は以下のとおりです。

バリューチェーンにおける特定のプロセスが根本的に非効率であった事実が確認されたとします。その非効率である部分、言い換えれば弱みの部分を社内で効率化できるかを検討します。社内で効率化ができないと判断すれば、外部委託することで効率化を実現するかという判断に発展する場合があります。この外部委託をさらに進めた形が戦略的提携といえ
ます。

戦略的パートナーシップのメリット

①新規顧客の開拓
新規顧客の開拓が最大の利点と言えます。提携することで潜在顧客との接点を持つことができます。また、提携先の企業ブランドが顧客に受け入れられているものなら、顧客や取引先から自社の信頼性を獲得することができます。
②新市場の開拓
既存市場で顧客を獲得できるだけでなく、提携先の企業の市場を補完的な市場とすることができるかもしれません。
③事業運営のリソース(経営資源)の共有
自社が提供できる顧客にとっての最高の価値が優れた製品を生み出すことなら、提携先のパートナーに求めるものは優れたマーケティング力であったりします。リソースを共有することで補完し合えることが大きなメリットとなるでしょう。
④売上高の増加
ここまでのメリットはすべて売上高の増加に繋がるものです。戦略的パートナーシップの第一目標が収益である必要はありませんが、重要な要素です。また、パートナーシップは、双方に利益をもたらすものでなければ長続きしません。

コトラーの「マーケティング・マネジメント」からの検証

コトラーの「マーケティング・マネジメント」のなかでは、販売・マーケティング機能の部分で戦略的提携をとることが多いとしています。実際の提携場面においても、コアコンピタンスが開発力の企業が、販売機能が弱みのため販売力のある企業と提携することが多いでしょう。

次の4つのカテゴリーにおいて、具体的な例示もされています。
1. 製品またはサービス
ブランドのライセンスを供与するライセンス契約や、製品の共同開発
2. プロモーション提携
ファーストフードの子ども向けのセットメニューなどで、アニメのキャラクターのノベルティグッズなどを提供
3. ロジスティクス提携
物流網に、提携企業の製品を乗せて流通させるような例
4. 価格コラボレーション
2社以上の企業が、同時に割引キャンペーンを行う場合

自社の強みを補強し、弱みを補完できるパートナー企業が見つかれば、企業はより少ないコストで大きな売上を獲得できます。まさにリスクの軽減といえます。
コトラーは、近年成果をあげている企業の多くはそうした創造的なパートナーシップを形成し運営できる能力を持っていると指摘しています。

DX 時代の小売業の戦略的パートナーシップの重要性

ここで、小売業を例にパートナーシップの重要性の裏付けとして、コトラーで提唱しているリテール4.0の10の心得を基にご説明していきましょう。
近年のデジタル技術の急加速によるDXが中核となり、小売業界のルールを激変させる新たなパラダイムチェンジに対する心得です。
【最優先は顧客経験】
これまでは、「立地」と「品揃え」という2つの要素が小売業界のカギでした。現在は、小売業のルールは「立地」と「品揃え」から「顧客経験」へ変化しています。ここでは、オンラインとオフライン(リアル店舗)のチャネルの相互補完こそが、小売業界の未来に向けたカギとなっていきます。
【DX時代の戦略的パートナーシップ】
DXをリテール業界の好機とするためのリテール4.0における10の法則のなかにも戦略的パートナーシップの重要性が示されています。
①不可視であれ、②シームレスであれ、③目的地であれ、④誠実であれ、⑤パーソナルであれ、⑥キュレーターであれ、⑦人間的であれ、⑧バウンドレスであれ、⑨エクスポネンシャル(指数関数的)であれ、⑩勇敢であれ
上記の10の心得の詳細の説明はここでは省きますが、ここでは、「⑨エクスポネンシャルであれ」を見ていきます。エクスポネンシャルとは指数関数的という意味です。戦略的パートナーシップを推進することで売上高増加等の効果が指数関数的に増加することを意味しています。外部の第三者の協力によって、自社のオファリングの限界を超えることができると説明されています。

戦略的パートナーシップの注意点

①提携目的の明確化・パートナーの評価
自社と相手方が提携すべき理由を明確にする必要があります。自社の強みと弱み、提携先の強みと弱みを知り、互いの事業計画にどう適合するかを判断してください。あなたがパートナーシップから得たいものを、前もって明確にしておきましょう。
②コミュニケーションをとる
コミュニケーションは戦略的パートナーシップにおいても重要な要素となります。進捗や状況の確認・共有を心がけましょう。また定期的な確認機会を設定しておくのがよいかもしれません。

まとめ

戦略的パートナーシップは、経営資源が少ない中小企業こそ、外部資源の活用という観点やリスクの共有・分散という観点からも、互いに協力し合える関係を構築し共に発展していくことが出来る関係を構築できることは効率的な戦略といえます。
戦略的パートナーシップは、DX時代に指数関数的に事業拡大には必要な戦略です。