column コラム

2023/12/13 経営

〜市場変化に対する適応力〜柔軟性とイノベーション

中小企業の経営戦略において、リスクとチャンスは欠かせない要素です。急変する市場において事業を継続するには、リスクを冷静に評価し、チャンスを見極める力が重要です。
不確実性が高まる昨今、中小企業ならではの強みを活かし、変化する市場環境にどのように適応し、チャンスを見極めるかという点に焦点を当てながら柔軟性とイノベーションについて考えます。

 

市場変化に適応するために必要な能力

市場は常に変化しており、企業の規模に関わらず、その変化に適応する能力が求められます。特に、現代のビジネス環境はデジタル技術の進化、グローバル化、新たな競争要因など、多くの要因によって影響され、不確実性の高まりが指摘されています(俗に「VUCA時代」とも呼ばれています)。
数年前までは考えられなかったような技術やサービスが次々と生まれ、グローバル化が進む現代社会においては、企業は市場の変化に柔軟に対応する能力が求められます。
また、新たな技術にシェアを奪われたり、海外から安価な商品やサービスが流入して経営を脅かされる事態になったとしても、生き残っていけるようにイノベーションを進めることも重要です。

 

市場変化に適応するための柔軟性

一般的に、資金力や人材などリソースが限られる中小企業ですが、大企業にはない強みもあります。主な強みの例として以下の4点が考えられます。

① 意思決定の速さ
② 社内コミュニケーションの取りやすさ
③ 特定分野に対する専門性の高さ
④ 柔軟性の高さ

<意思決定の速さ>
大企業の場合、意思を実行に移すためには上司や他決裁者の理解と承認が必要であり、手続きそのものの時間や手間がかかることがあります。一方、中小企業の場合、経営者や管理者などの意思決定者と現場担当者の距離が近いがゆえに迅速な意思決定を可能としています。

<社内コミュニケーションの取りやすさ>
大企業は部署や組織が分離されていることがほとんどで、部署を超えた情報共有には一定の壁があります。中小企業の場合、組織構造は複雑ではないケースが多く、経営者と現場で働く社員の距離も近い。それゆえに、役職や業務の内容に関係なく社内のコミュニケーションが取りやすいです。

<特定分野に対する専門性の高さ>
リソースの限られる中小企業は、その限られたリソースをいかに無駄なく、効率的にパフォーマンスに変えられるかということがとても重要です。ランチェスター戦略に代表されるように、中小企業では限られたリソースを最大限活用するため、特定の分野に特化した事業展開を行う必要があり、事業を継続する中で専門的な知識や技術が蓄積されていきます。

<柔軟性の高さ>
大企業では、資金や人員を大量に投入し、事業を運営しています。さらに、取引先や顧客など利害関係者も多くなり、調整や変更に時間や労力が必要となります。
一方、中小企業では事業の途中で環境が変化してしまった場合でも、新たな施策を立てたり、方針転換等のための調整や変更をスムーズにできます。
また、リスク管理も柔軟性の一環です。リスク管理は、企業経営において発生する可能がある事象をあらかじめ把握し、適切に管理するプロセスです。
リスクを冷静に評価し、事前に対策を立てることで、企業は不利な事態にも柔軟に対応できるようになり、中小企業の強みを損なわないように取り組むことも重要です。

 

市場変化に適応するためのイノベーション

イノベーションは、新しい価値を創造し、市場に提供することです。中小企業は、自社の強みを活かしながら、新しい技術やサービスを開発することで、市場での競争力を高める必要があります。
イノベーションの例としては、新しい製品の開発、新しい市場の開拓、新しいビジネスモデルの構築などが考えられます。また、イノベーションは、組織内外での協力によっても進められます。リソースが限られる中小企業は、他の企業や研究機関と連携し、共同で新しい価値を創造することも大切です。

イノベーションには、市場環境の分析も重要です。市場環境の把握は、企業の将来的な成長と収益性の可能性を評価するために重要な検討事項です。
中小企業は、自社の強みと弱み、市場の機会と脅威を分析し、戦略的な経営判断を行うことで、市場の変化に適応しチャンスを見極めることができます。
安定して市場が拡大する場合にはスケールメリットが利きやすく、中小企業は大企業と比べて相対的に不利となりますが、市場の変化の頻度や幅が大きいほど、柔軟性の高い中小企業に有利に働く可能性も高まります。

 

中小企業がイノベーションに取り組む意義

経営資源が豊富な大企業と違い、経営資源の限られる中小企業ではイノベーションに取り組むことは難しいと考えている経営者もいらっしゃるかもしれません。
しかし、2021年版の『中小企業白書』によれば、事業の大幅見直しを迫られたことのある中小企業が経営危機に陥る前に、最も重要な取組みとして「新規事業分野への進出、事業の多角化」を挙げている点をご存じでしょうか?

中小企業が経営危機を乗り越える上で最も重要だった取り組み

(出所:『2021年版 中小企業白書』)

さらに、当該調査結果では経営危機に陥ってからは、資金繰りの改善が最も高くなっている点、次いで金融機関への相談や信頼関係の構築が高くなっている点も興味深い点です。
資金繰りを改善し、金融機関と信頼関係を構築する中で、不採算事業からの撤退、中核事業への集中、雇用や人件費の削減といった取組みを迫られる可能性もあることが調査結果から浮かび上がってきています。

経営危機に陥った企業だからこそ、経営危機に陥る前からイノベーションに取り組むことの重要性を見出していると言え、中小企業がイノベーションに取り組むことの意義は高いと言えます。

 

まとめ

リソースの限られる中小企業は、ヒト、モノ、カネ、時間などをどう捻出するかが、最大の制約条件となり得ます。仮に、この課題をクリアしたとしても、新規事業の成功をつかむまでに、予測できない事態が発生するリスクが立ちはだかることもあり、中小企業には困難と捉える経営者もいらっしゃるかもしれません。

しかし、経営危機に陥らないためには既存事業の改善だけではなく、新規事業開発などのイノベーションに取り組んでいくことが重要となります。
経営者はリスクにも向き合いながら、変化に対応できる柔軟性など、中小企業ならではの強みにも目を向け、前向きにイノベーションに取り組むことが持続可能性を高めると言えます。