~「人が辞めない会社作り」について~(第33話)《人事制度の評価軸について》
(第33話)
300社以上の経営を支援してきた経営改善の専門家が、「人が辞めない会社作り」についての取組みをご紹介します。
《人事制度の評価軸について》
前回「会社をやめる理由」対策の一つ目であるブランディングとして「インナーブランディング」をご紹介しましたが、今回は対策の二つ目である「人事制度構築」についてお伝えしたいと思います。そもそも、人が会社をやめる理由に「評価」に対する不平不満が直結していることをお伝えいたしましたが、これを対策するのが、公平・公正な「人事制度の構築」となります。では、どうすれば公平・公正な「人事評価の構築」になるのでしょうか。
①人事評価の5原則
人事評価の目的を達成するためには、評価を受ける側から納得の得られる人事評価が求められます。納得が得られる評価のためには【図表-1】にあるように、5つの原則を守る必要があります。
【図表-1】人事評価の5原則
これらの要素をしっかりと踏まえたうえで、評価軸を設定することで、人が辞めない人事制度を構築することが出来るようになります。
②人事評価の3つの要素軸
それでは、評価軸の要素ですが、一般的には「業績」、「能力」、「意欲」の3つに区分されます。なぜこの3つに分解されるのでしょうか。【図表-2】をご覧ください。
図を見て頂くとわかる様に、社員一人ひとりの「成果」は、社員一人ひとりの「職務行動」から生まれています。しかしながらそこには「外部要因」というものが関わってきます。
外部要因は、本人の職務行動が直接成果につながることを歪めるものです。
例えば、景気が良かったら、たいした努力をしなくても成果をあげることができますし、景気が悪かったら、様々な努力をしてやっとのことで成果をあげることが出来るということもあります。こういった外部要因をコントロールしなければ、公平・公正な評価とならないからです。
【図表-2】社員一人の職務行動と成果
それでは次に、図の右側の3要素について見ていきましょう。
「業績」は、結果責任がそのまま問われる成果評価にあたります。外部要因がどうであれ、本人が生み出した成果の良し悪しをそのまま評価するものです。
結果だけを見るというのもいろいろ弊害はありますが、事業が収益をあげるという結果を求めるのにも関わらず、結果を評価しないというのも弊害が生じます。会社における責任の重さによりウェイトは変わってきますが、信賞必罰という意味からも必要な要素となります。
残りの「能力」と「意欲」の二つは、成果を生み出した正味の本人要因ということになります。本人の職務行動により成果が生み出されたのですが、その外部要因であるフィルターを取り除いたものなのです。
「能力」は、知識や習熟度に分けられます。知識は業務上必要とされる専門知識や業務知識をどれぐらい持っているかとなります。専門知識は、業務に専門的に必要な知識であり、業務知識は業務の進め方に関する知識となります。習熟度は、職務上必要とされる遂行能力のことで、企画力、実行力、対策立案力、問題把握力、改善力、育成力などを示します。
最後に、「意欲」は、情意(態度)評価といわれ、積極性、協調性、規律性、責任性、自己啓発などを評価するものとなります。
これらの3つの評価軸に対していくつかの評価項目を設けて、その項目で評価を行っていくことになります。それではその3つの評価軸について深堀りしてみましょう。
③各要素の評価項目とは
それでは、【図表-3】をご覧ください。
まず、「業績」にあたる評価項目ですが、業績の中にも売上や利益目標などの数値面の評価を行う「業績評価」と業績数値をあげるために行う問題解決や改善活動の実績を評価する「活動実績評価」という2つがあります。
活動実績が良くなると業績が良くなるという関係から、業績評価が結果であり、活動実績評価がプロセスとなります。
例えば「売上を前年比1割アップする」とは、最も結果に近いものとなります。その為に何をするかというと、「新規顧客を10件開拓する」となります。
次に「そのために、新規訪問の時間を5割増やす」のように、結果とプロセスは常に相対的な関係となっています。従って、期間が長く1年の評価期間の中で実績をあげることが難しいものは、「活動実績評価」として評価していく必要があります。
次に「能力」にあたる評価項目ですが、能力における知識には「潜在知識」、「顕在知識」があります。文字通り、「潜在知識」は表には出ていないがきっとあるだろうと思われる知識のことで、「顕在知識」は行動事実によって確かにあると認識された知識となります。
これらを評価するにあたっては、「保有能力評価」と「発揮能力評価」を行う必要があります。「保有能力評価」は、評価時点でどこまで保有能力のレベルが高まったかを評価する方式で、「潜在知識」がどれだけ顕在化されたかを確認し、職能資格基準を満たしているかを判断するものとなります。
また、「発揮能力評価」とは、「顕在知識」を評価期間中にどの程度の能力が発揮されたかを評価する方式となります。これらの評価を使って能力を判断していきます。
最後に、「意欲」にあたる評価項目ですが、先にも上げました、積極性、協調性、規律性、責任性、自己啓発といったものがあります。しかしながら、最近では、誠実さ、スピード、お客様志向、品質志向、全体最適、コンプライアンス等を評価項目として、企業価値を高めるために求められる社員の行動を評価するものとして「バリュー行動評価」というものが存在します。これらの評価項目を組み合わせて公平・公正な「人事評価の構築」を作っていくことができます。
④独自性のある評価項目
人事評価要素はオリジナルが原則です。同じような評価要素を使いすぎると、企業としての独自性が無くなります。独自性が無くなるということは、差別化要素が無くなるということです。企業には他の企業に負けない独自性が必要で、その独自性が強みとなります。評価項目は、人材に対して競争上の強みをどこに形成していくかという視点から、個別企業ごとにさまざまな形で設定して独自性を出す方がより良いものとなります。
自社の経営理念や経営方針を基に、これらの内容を踏まえて、人材不足にならない会社を作っていきましょう。