column コラム

2022/01/27 組織

「パフォーマンスを上げるためのマネジメントとは?」

会社の資源の中でも「ヒト」は「モノ・カネ」などその他の経営資源そのものを動かす、最も重要な要素です。但し、単に人材に投資をしたからといって人的資源は潤うものではなく、組織全体で育むことが大切です。人づくりは一部の部署や担当者に依存するものではなく、企業全体で取り組んでいくべき重要なテーマだと言えます。

あなたの会社の人材が「人財」となりうるために、「人づくり」から企業経営を考えてみましょう。

 

「パフォーマンスを上げるためのマネジメントとは?」

 

《パフォーマンスを上げるための経営資源とは》

経営とは、ヒト、モノ、カネに代表される経営資源をいかにマネジメントして、成果を出すか、そのことに他なりません。マネジメントといえば、ヒトに対してのものが語られがちですが、当然、モノやカネに対しても行っていかなくてはなりません。

工業的な機械設備ばかりではありません。AI(人工知能:artificial intelligence)が社会に浸透する中、労働者不足、生産性向上のためのRPA(ロボットによる業務自動化:Robotic Process Automation)の導入について、現実的な課題として、お考えになっている事業者の方々も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

労働生産性とは、事業が生み出す付加価値を従業員数で割ったものになりますが、設備投資(モノ)を労働者(ヒト)の生産性を上げるためのものと考えると以下の式で表されます。

ヒトがパフォーマンスを上げるために、いかにモノ(設備)に投資していくかは、労働者不足が叫ばれる中、ますます重要視されていくことでしょう。

 

《経営資源としてのヒト》

「人は石垣、人は城、人は堀」は、「風林火山」の軍旗で有名な戦国時代の武将、武田信玄による言葉とされるものです。松下電器産業(現パナソニック)創業者の松下幸之助氏は「事業は人なり」という言葉を好んで使ったといわれています。ヒト、モノ、カネに代表される経営資源の中で、それらの経営資源を動かせるのも、他ならぬヒトといえます。

それでは、企業が組織としてパフォーマンスを上げるためには、どのような方策が考えられるでしょうか。一般的にいわれる人事システムには、大きく「採用」「配置」「評価」「報酬」「育成」の5つがあるといわれます。

 

《「採用」について》

「採用」よって、即戦力、または、将来的なパフォーマンスを期待し、組織内に新たな人的資源を加えます。

「育成」を前提にした「採用」なのか、即戦力としての成果を期待しての「採用」なのか、いずれにせよ、ヒトが企業のパフォーマンスを上げる原動力となるのであれば、パフォーマンスを上げるヒトをいかに「採用」するかは、企業の将来を左右する大きな要素といえます。

 

《「配置」について》

ヒトの能力を最大限発揮させるため、適材適所に「配置」させます。「採用」「育成」についてはヒトの能力に関するもの、「配置」は能力を発揮させ、成果につなげる組織構造づくりといえるでしょう。

「採用」と同様に「配置」についても「育成」に大きな影響を与えます。ヒトは「配置」された場所によって、上げられるパフォーマンスに差が生まれる一方、「配置」された場によって、どのように成長するのかが変わります。

 

《成果目標を結果に導く「評価」と「報酬」》

「評価」と「報酬」は、企業の業績と個人の成果を連動させる仕組みといえます。ここで重要となってくるのは、「評価」と「報酬」が個人の成果を上げる動機として機能させる上で個人の価値観に大きく関わっているということです。

価値観の多様化した時代といわれます。昇進や昇給のために、長時間労働をいとわず、がむしゃらに働き、成果を上げることをモチベーションとする人ばかりではありません。自分の時間を犠牲にしてまで経済的な豊かさを求めない働き方をする人、自分の価値観に合わない働き方をしてまで、成果を上げようとは思わない。そのような考え方の人も存在します。

昇進や昇給のような成果に対する報酬だけが、モチベーションを高める術ではないとしたら、マネジメントする側は、多様化した価値観、それぞれの価値観に対し、モチベーションを高める対価を用意する必要があります。価値観ばかりでなく、働き方が多様化する中、このことを考えることは人事マネジメントを行う中で、ますます重要になるでしょう。

 

《マズローの欲求5段階説》

頻繁に持ち出されるのが、米国の心理学者 アブラハム・H・マズローが1943年に唱えた「欲求階層説(欲求5段階説)」です。人間が持つ欲求には5段階の構造があり、基本的に低次の欲求が充足されることによって高次の欲求が発現すると考える心理モデルのことで、「評価」や「報酬」がパフォーマンスを上げるモチベーションにつながる理論的根拠として語られてきました。

1.生理的欲求:生活のためにお金を稼ぎたい

2.安全の欲求:過重労働やハラスメントのない快適な職場で働きたい

3.社会的欲求:同僚や上司と良好な人間関係を築きたい

4.承認欲求:仕事の成果を認められたい、出世したい

5.自己実現欲求:仕事を通じて社会貢献したい、憧れの上司のようになりたい

 

マズローの法則はとてもシンプルで説得力のある理論ではありますが、発表されたのは78年前であり、否定する内容の研究結果も数多く発表されています。心理学者のステファン・P・ロビンスは、1994年、日本人の場合には自己実現欲求ではなく「安全欲求」が最上位になっている、と報告しています。当然ですが、マズローが「欲求階層説」を唱えた1943年とロビンスの報告した1994年では、社会的に大きな時代の変化があります。

 

《価値観が変化、多様化する中でのマネジメント》

ヒトの価値観は時代と共に変化し、また、多様化してきています。NHKは1973年から5年ごとに「日本人の意識」について調査を行っています。

仕事と余暇についてみてみると、1973年第1回調査では、「余暇も時には楽しむが、仕事のほうに力を注ぐ」と回答した人の割合が全体の中で最も多く35.7%を占めていました。2018年第10回調査をみると「仕事にも余暇にも、同じくらい力を入れる」が最も多く38.1%です。「仕事に生きがいを求めて、全力を傾ける」人は第1回調査では8.2%いましたが、第10回調査では、3.9%と半分以下になっています。

マネジメントを行う上で、仕事に対する考え方がこのように変化してきていることを理解し、活かすことは、いかにヒトのパフォーマンスを上げるかを考える上で重要といえます。多様化した価値観を認める社会、ダイバーシティ(多様化)が進む中、多様化を組織の優位性に変換するマネジメントが求められているといえるでしょう。

顧客の意識が時代と共に変化、多様化するように、企業を構成するヒトの意識も変化し、多様化しています。過去のマネジメントの形に安住することなく、常に変化する組織やそれを構成するヒトをみながら、マネジメントを考え、変えていくことが重要といえるのでしょう。