事業承継の取組について
企業経営において内外の環境変化に対応することが生き残りの、ひいては成功の鍵となります。本稿では、いま多くの中小企業の課題となっている事業承継について取り上げます。事業承継をリスクではなくチャンスとするためにどうすればよいかを考えます。
「事業承継」とは
事業承継とは資産の継承だけでなく、想いや技術・ノウハウを次の世代へつなぐことです。
<事業承継の現状>
中小企業の事業承継の現状は、経営者の高齢化、および後継者不在・廃業です。
中小企業の経営者の高齢化
経営者年齢のピークはこの20年間で50代から60 ~ 70代へと大きく上昇しています。
経営者年齢は平均60.5歳で、過去最高を更新している状況です。
後継者不在・廃業
後継者の不在状況は深刻であり、休廃業・解散件数はコロナ禍の影響もあって増加傾向です。2023年の休廃業・解散件数は49,788件と2014年の33,475件から9年間で48.7%増加しています。
近年増加する中小企業の休廃業の大きな要因の一つです。廃業理由の約3割が後継者不足となっています。
このままでは日本経済・社会を支える貴重な雇用や技術が失われる可能性があります。
事業承継を契機に成長を目指す
一方、事業承継による世代交代やM&Aによる事業規模の拡大は、成長のためには効果的です。中小企業の活力の維持・発展のために事業承継は不可欠な手段となっています。
事業承継後3年目以降からは売上高成長率が同業種平均を大きく上回る結果を出しています。
出所:中小企業庁ホームページ
また、事業承継時の経営者年齢が若い企業ほど、事業の再構築に取り組む傾向があります。
このように、若い経営者に事業を承継し世代交代を図ること、環境変化に対応して事業の見直しと再構築に取り組むことが、中小企業の維持・発展には不可欠です。
事業承継の種類
事業承継は、引き継ぐ先によって、次の3つに分類されます。
親族内承継
現経営者の子などの親族への承継です。準備期間が確保しやすく、相続等による財産・株式の後継者移転が可能であることから所有と経営の一体的な承継が期待できます。
従業員承継
親族以外の従業員への承継で、経営者能力のある人材を見極めて承継することができ、経営方針等の継続が期待できます。
M&A(社外への引継ぎ)
社外の第三者(企業や創業希望者等)へ株式譲渡や事業譲渡により承継します。親族や社内に適任者がいない場合でも広く候補者を求めることができ、現経営者は会社売却で利益を得ることができます。
事業承継を経営変革のチャンスとするには
事業承継における大きな課題は、「資産(経営権)」の承継と「経営」の承継です。経営の承継においては、次の2点が重要となります。
① 継承の時点において、現経営者が積み残した課題を解決する
②次世代においていかに独自の経営理念を具現化できるか
時間軸が非連続となる事業承継時だからこそ、思い切った改革に着手できます。新経営者がリーダーシップを発揮し、積み残した課題を迅速に解決することで、自信もつき市内外からの求心力も高まります。
また、創業者からの承継の場合などには、ワンマン経営からチーム型経営への移行が必要となります。経営理念を単に引き継ぐのではなく、改めてこれからの会社の経営理念を再構築し、中期経営計画策定や業績管理制度を導入しチーム型の経営に移行していきます。
このように、事業承継は経営の承継面で自社を変革させる大きなチャンスです。
また、先代が引退するギリギリになって承継先を考えるのではなく、早めの準備が肝要です。
事業承継の進め方
事業承継は引き継ぐ先や状況毎にステップが異なります。
公的支援体制
全国47都道府県に公的支援機関として「事業承継・引継ぎ支援センター」が設置されており、事業承継のご相談ができます。
事業承継・引継ぎ支援センター
https://shoukei.smrj.go.jp/
次のような支援策もあります。事業承継・引継ぎ補助金
https://jsh.go.jp/
M&A支援機関登録制度
https://ma-shienkikan.go.jp/
詳細は各ホームページをご覧ください。
まとめ
生成AIの登場、成長分野の事業領域の入れ替わりなど事業環境が大きく変化する中、会社も変わっていかなければ生き残れない状況です。事業承継は、想いやこれまで培ってきた技術・ノウハウを次の世代へつなぎ、こうした環境変化に対応し、ドラスティックに自社を変革させる大きなチャンスと捉えましょう。
後継者の選定、計画的な移行、財務や税務の整理、および社員や関係者との信頼関係の維持に留意し、長期的な視点で後継者とビジョンを共有し経営理念を引き継ぎましょう。
段階的に業務や権限の移譲を行いスムーズな経営者の交代を目指してください。早めの準備が肝要です。