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2019/08/28 経営

経営改善の専門家が解決します! ~会社のお困りごと相談室~

経営改善の専門家が解決します!

~会社のお困りごと相談室~

(第25話)

経営改善の専門家が今まで受けてきた300社以上の経営相談を基に、多くの会社で起こり得る問題とその対応策について、具体的なエピソードを交えて解り易くお伝えします。

 ◆本日のご相談◆  

「店舗スタッフの顧客対応力」が当社の強みだと思っています。人手不足の中、店長の高い接客スキルや商品コーディネート力で、店舗部門の売上は伸び続けています。しかし、ファッション業界はいかに売れる商品を先行して仕入れ、タイムリーに提供できるかが肝です。そのために卸部門と店舗部門が情報共有を行う必要性を感じています。また、来年は事業拡大も考えており、社長がマネジメントに専念するために、現場の状況の見える化もしたいです。

このような社内情報の共有をうまくするにはどうすればよいでしょうか。

【ご相談の会社について】

基本データ

(業種業態)婦人服製造小売業

(売上高)650百万円

(収益状況)経常黒字(5,000千円)

(従業員人数)30名

会社の現状

当社は30代~40代向けのオリジナル婦人服を販売しており、全国に10店舗ほど展開している。

昨今、アパレル業界を取り巻く環境は、インターネット等によるファッションの多様化やファストファッションの台頭で価格競争が激化しており、収益は低下傾向にある。その様な状況においても、独自性あるオリジナル商品に力を入れ、顧客のニーズに対応した幅広い品揃えやきめ細かな接客を行い、顧客満足向上に向けて取組んでいる。

【ヒアリング内容】

・ご相談の会社には、卸部門、店舗部門がある。

・従業員のモチベーションが高く、売上向上に率先して取り組んでいる。

・卸部門は、在庫管理や商品手配で手戻りが多くなっている。

 その多くが店舗への納期や在庫確認である。

・店舗部門と卸部門は全く違う文化を持っており、あまり接点がない。

・四半期に全体会議が開催されるが、全社的な共有が図られていない。

・情報共有や連絡はメールかSNSである。

・過去に店舗から寄せられたクレームや情報を蓄積管理していない(すべて紙保管)

【見えてきた問題点】

相談者(社長)と各部門へのヒアリングにより、以下の課題が明らかになってきました。

《組織体制が曖昧である》

これまで従業員の自主性を尊重しており、業務の役割や責任を明確にしていない。よって、現在の業務と組織体制が一致していない状態である。

《店舗と卸部門との意思疎通ができていない》

店舗間は物理的に距離があり、卸部門も個人プレーヤーが多いため、意見交換がなされていない。生産トラブルや在庫調整等の事態に、すぐに対応することができていない。

《全社的なIT活用が進んでいない》

情報のやりとりは、ExcelやSNSを活用しいる。社長自身ITがあまり得意ではないこともあり、過去にシステムの検討をしたことがない。その為にIT投資が進んでいない。

《過去の知見・ノウハウの有効活用ができていない》

店舗からの要望、クレーム、成功事例、展示会やディスプレイ写真などの情報が現場から社長に上がってくるが、再利用することはしていない。過去情報はメールを探したりする程度である。

【課題への対応策】

前述の問題点を解決するために、ご相談の会社は「ITを活用した情報共有の仕組み作り」が課題であると考えました。従業員個々の能力を尊重しており、ルールなどはあまり設けない方針できていました。ですが、今後さらに事業拡大をするためには、最低限のルールが必要であるとご説明し、そのためにITを活用した情報管理基盤の必要性をご理解いただきました。具体的には以下の対応策をとりました。

《①組織体制の見直し》

まず、現在の組織構造と実際に従業員が行っている業務を照らし合せました。そうすると、店舗に所属しているにも関わらず本部の仕事を手伝っていたり、自発的に店舗全体のとりまとめを行っており、店長業務に支障が出ている人もいました。そこで、組織構造を見直し、それに合わせて業務の割振りを見直しました。

《②情報の整理》

どのような情報が存在するのかと、その情報の流れと伝達手段を洗いだしました。その結果、個人で管理しているExcelや紙が予想以上に多く存在することがわかりました。情報を整理すると、在庫情報・顧客情報・連絡事項・各自の予定・クレームなどでした。ですが、これらの一部しか卸部門や本部と共有されておらず、社長も把握していない情報がありました。そこで、共有すべき情報としなくてもよい情報を仕分けしました。

《③運用ルールの決定》

情報発信、報告のタイミング、記入方法などのルールを決めました。在庫情報も一か所に保存し、更新頻度を決めました。連絡事項は、一過性のものや急ぎはSNS、長期間告知が必要なものは、FAX配信し店内掲示にしました。日報は、Excelでフォーマットを統一し、一か所に保存・共有できるようにしました。

《④過去情報のデータベース化》

これまでの情報を精査し、会社の財産に値する情報はデータ化をしました。店舗からの要望やクレーム情報はデータベース化し、検索ができるようにしました。また、過去に実施した展示会の写真や実施マニュアルを整理して一か所に保存しました。これにより、ノウハウの共有が図られ、新商品開発スピード向上、店舗での顧客対応力向上に活かせる環境が整いました。

《⑤システム(グループウェア)の検討》

IT専門家に相談し、自社にはグループウェアが適していると判断しました。主要スタッフに参画してもらい、運用について意見交換をしました。前述④までが進められていたので、システムへの置き換えは非常に短期間で済み、運用もすぐに軌道にのりました。

 【ご相談者のその後】

今回の取組みにより、情報の見える化だけでなく、共有のスピードや精度があがりました。社長は自身の想いをグループウェアから発信でき、従業員全員に届けられるようになりました。また、現場社員も自身の意見や情報発信の場が与えられたことで、社内コミュニケーションが活性化されました。さらに、在庫情報はルールを定めたことで、従業員間の不要なやりとりが減りました。 

【専門家から一言】

情報共有が進まない理由の多くは、その重要性を理解していないことが考えられます。情報共有のメリットは、社員同士のコミュニケーションの円滑化や、自分一人では気付かなかった問題点や新しい考え方の発見などがあります。情報の流れが早い現在のビジネス環境において、会社全体で戦っていくための組織力を高めることが大いに期待されます。