「人づくり」から考える企業経営について~目的意識の高め方~
(第50話)
会社の資源の中でも「ヒト」は「モノ・カネ」などその他の経営資源そのものを動かす、最も重要な要素です。但し、単に人材に投資をしたからといって人的資源は潤うものではなく、組織全体で育むことが大切です。人づくりは一部の部署や担当者に依存するものではなく、企業全体で取り組んでいくべき重要なテーマだと言えます。
あなたの会社の人材が「人財」となりうるために、「人づくり」から企業経営を考えてみましょう。
「目的意識の高め方」
同じ仕事を行ったとしても、目的意識の持ち方によって社員の仕事への熱量やその成果に大きな差が生まれます。「仕事」に対する目的を持ち、その目的にやりがいを見いだせた時、やる気が生まれて生産性が向上し、創造力が高まることに繋がります。
今回は、社員のモチベーションを左右する「目的意識」についてお話していきたいと思います。
《目的意識とは?》
まず、最初に「目的意識」の意味について見てみましょう。国語辞典「大辞泉」には、「行動の目的に対する明確な自覚」とあります。つまり、目的意識を持っている人は、「自分は何のためにそれ(仕事)をするのかが分かっている」ということになります。
逆に「目的意識を持っていない」とは、「自分は何のためにそれ(仕事)をするのかが十分に分かっていない」ということになります。
目的意識を持って仕事をする人としない人とでは、仕事の成果やモチベーションにどのような違いがあるのでしょう。
《目的意識の効果》
①仕事の業務効率化が図れる
一番わかりやすく、かつ実感しやすい効果は「業務効率化が図れる」ことです。業務の目的(ゴール)が分かっている時に、効率よく仕事をすることができます。
たとえば、部下にあるデータの入力を依頼するシーンを想像してみましょう。
「このデータを入力しておいてくれる?」のように依頼すると、部下は単に入力することしかできません。なぜなら、「何のためのデータ入力なのか(理由)」が分からないためです。
そこで、「このデータ、役員会で配布する当社の業務推移資料に利用するから、入力しておいてくれる?」というように、理由と一緒に伝えると、「何のために」が分かります。そうなると「競合A社のデータも一緒に用意した方がわかりやすいのでは」といった自発的な発想が生まれ、生産性の向上、業務効率化が期待できます。
②「目的意識の共有」によるチームワークの醸成
次に、「目的意識」は、個人だけでなく、共に仕事をするメンバーみんなで共有することも重要です。メンバーのひとりだけが高い「目的意識」を持っていても、ほかの人と共有できていないと、職場の足並みはそろいません。
例えば、チームワークが必要となる業務やプロジェクトの場合、一部の上位者だけで目的意識を共有し、実務を行う下位の社員は、ただ指示されるだけという状態であると、下位の社員は目的意識を持つことができず、生産性もモチベーションも低下してしまいます。
業務やプロジェクトの目的をチーム内で共有することで、個々人の役割などが明確化するとともに、共通目的を達成する意欲が高まり、結果、チークワークの醸成に繋がります。
③仕事のストレス軽減
一方で、人は「目的意識」を持つことが出来ない仕事には苦痛を感じやすくなります。たとえば、「なぜこんな業務をしなければならないのか」「締切りにばかり追われて憂鬱だ」という風に、「嫌々行う作業」に陥りやすいと言われています。
また、仕事は上司やクライアントから指図されることが多いですが、指図された仕事は「こなす」意識が強くなり、モチベーションは上がりません。
どのような仕事にも本来の目的があります。その目的を理解し主体的に取り組むことで、やりがいを持って仕事することができ、ストレス軽減に繋げることができます。
《目的意識を高めるには》
ここまで述べたように、目的意識を持って仕事を行うと、生産性やモチベーションの向上に効果があることが分かりました。それでは、社員の目的意識を高めるにはどうすればよいのでしょうか。
①目的を伝える
一番重要なことは、目的をきちんと伝えることです。そこには、前述のような「データ入力」といった日常業務における目的から、企業の経営目的や今後の経営戦略の方向性といった大きな事項も含まれます。
「この仕事の意味」「プロジェクトの目的」「職場の存在意義」「会社としてどうありたいのか」など、それぞれには、それぞれの目的や意味、役割があります。これらを日頃から伝えていくことが重要です。
目的を全社員と共有することが、社員一人ひとりの目的意識つまり、遂行する業務の役割や重要性を意識させることに繋がります。
②目的を考えるように問いかける
目的を持たない人や自ら考える癖がない人に対しては、「何のために」を積極的に伝え、目的に意識を向けてもらうことも重要です。
たとえば、あるプロジェクトに対する目的意識を持ってもらうためには、「このプロジェクトは何のためにあると思う?」「プロジェクト成功のためにどんなことを考えているのか?」など、目的を考えるように問いかけると、自然と、「何のためにそれをするのか」を考えるようになり、仕事への取組み姿勢 改善が期待できます。
③目的意識を持って仕事する職場環境を作る
3つ目の方法は、目的意識を持って仕事する職場環境を作ることです。上司が目的意識を持って仕事をする姿を、部下に見せたり、目的意識を共有することで、職場全体の雰囲気を、主体的に取組む環境に整備します。
そうなれば、その配下にいるメンバーも目的意識の重要性を認識し、意識を持って仕事しやすくなります。
《まとめ》
目的意識を持てば、仕事の目的と目的(ゴール)が明確になります。目的が分かれば「やらされている(受動的)」から「やっている(主体的)」に気持ちと行動が変わります。
社員が目的のために主体的に考え、行動するよう変化すれば、やりがいが生まれやすくなり、加えて無駄な取り組みも減って、業務の効率化が可能になります。
また、会社全体で目的意識を共有することは、社員一人ひとりが役割・責任感を自覚し、仕事に対する姿勢を変えることに繋がります。加えて、会社やプロジェクトの共通目的(ゴール)をチーム一丸となってめざすことで、チームワークを高め、職場全体も活気ある雰囲気になります。
企業側が積極的に社員との目的意識の共有を図り、仕事の目的を考えてもらうことで、社員一人ひとりのモチベーションが高まり、やりがいを持って仕事に取り組むようになり、組織全体の活力向上も期待することができます。