資金繰り表の大切さ
銀行出身の中小企業診断士である事業再生専門家の視点から、事業再生の状態に陥らないために、「転ばぬ先の杖」として知っておいていただきたいことをお伝えしていきます。今回は、会社の事業継続に必要な「資金繰り表」についてお話いたします。
■資金繰り表とは
「資金繰り」とは、日々の事業活動の中で、資金不足にならないようにお金の出入りをコントロールすることです。その資金繰りを管理するツールとして「資金繰り表」が使われています。私は銀行員時代から多くの企業をサポートしてきましたが、「資金繰り表」を作成している企業は意外と少ないのが現状です。例えば、「資金繰り表」を作成していないと、「儲かっているのに、現金が足りない」という状況になる可能性があります。この状況を放置しておくと、いずれ「黒字倒産」に陥ってしまいます。「黒字倒産」とは、仕入代金や毎月の家賃や給料などの経費を期日どおりに支払えなくなり、営業を継続できなくなることです。なぜこのような状況に陥るのかを考えてみたいと思います。
■損益と収支の違いを理解
皆さんは、「損益」と「収支」の違いを正しく理解されているでしょうか?双方、似たような言葉ですが、実は全く違う概念です。「損益」は、売上から経費を取引が発生した時点で差し引いたものになり、現金の動きは関係ありません。一方、「収支」は、収入から支出を引いたもので、実際の現金の動きを表わします。前者は「損益計算書」、後者が「資金繰り表」で管理されます。先ほど、「儲かっているのに、現金が足りない」と記載しましたが、これは、「損益計算書上では利益が出ているが、資金繰り表では現金がゼロ(に近い)又はマイナスである」と言い換えられます。それは、「儲かっている」ことは会計上の話であり、そのとおりに売上代金などが入金されなければ、支払日にお金が足りなくなるからです。よって、会社経営をしていく上で、儲かっているかだけではなく、支払日にお金が足りるかどうか、つまり資金繰りが安定しているかが事業を継続していく上で、非常に重要であると言えます。
■現状把握:自社のお金の出入りを把握する
まず、安定した資金繰りを行うために、自社の現状を把握しましょう。そのためには、「日繰り資金繰り表」の作成をお勧めします。取引相手がどのような内容で、いくら入金や支払いを行うのかの予定を1つずつ記録していきます。そうすると、月中で資金不足になる日を予め把握できるので、先に対策を打つことができます。ですが、「日繰り資金繰り表」はあくまで短期的な予測に用いるものですので、「月次資金繰り表」と合わせて作成しましょう。「月次資金繰り表」で過去の実績を確認し、向こう3か月分は作成しておきましょう。
■対策:資金繰りの改善策
次に、資金繰りの安定させるための代表的な改善策をご紹介します。①売掛回収サイトの早期化、②買掛支払サイトの長期化、③在庫圧縮です。
①:売掛金などは、代金が回収されるまでは資金化されません。つまり、早く回収できれば、手元資金が増え資金繰り安定につながります。そこで、売掛回収サイトを短くするよう交渉しましょう。
②:①と反対の取引で、買掛支払サイトは長く設定すれば、それだけ余剰資金が生まれやすくなります。ただし、①②とも既存取引先との交渉は、信用問題に繋がりますので、あまり好ましくありません。それぞれの取引開始段階で交渉をしましょう。
③:余剰な在庫を削減し、在庫として寝かせている資金を現金化することです。まずは売れ筋を見極め、適正発注による在庫削減を心掛けましょう。
■まとめ
資金繰り表は、決算書と同様、自社の現状を数字で表した大切な資料になります。会社の目的は利益を上げることなので、経営者は利益に目を向けてしまいがちです。しかし、事業で成果を上げていくには、「お金」が必要です。今回のコラムをきっかけに、「資金繰り表」の大切さを理解いただければ幸いです。